14話Pervert/あんじゃこりゃぁ!?

「と、とりあえず、アンナ様子見で1発行ってみよう!」


 はひぃ。と裏返った声で反応したのち、ワンドをブリッジの状態で高速で近づく男に向けた。


「アクアバズーカ!」


 放出された水の柱は男へと迫り、地面を抉りながら草原を突き進んでいく。

 だが、奴は当たる直前に横に大きく跳びアクアバズーカを避けていたのだ。そして、着地すると更に近づいていくる。


「ねぇ、攻撃したままこの攻撃って動かせない? こう左右にさ」


「えっ!?」


 彼女は驚いたような表情を浮かべる。

 動かせて、攻撃が当たるのなら手っ取り早いか。


「俺からも頼む。やってみてくれ」


「は、はい。やってみます!」


 エミリアの提案実行し、少しずつ腕を動かしていき再び水の柱が奴に迫る。が、今度は進行方向を変え迫る攻撃から逃げ始めた。


「アンナ、一旦止めろ。エミリア!」


「分かってる」


 アクアバズーカによる攻撃は止み、俺はアンナの前に出るエミリアの肩に掴まった。

 風呂あがりなせいかいい匂いがし口元が緩みそうになる。俺は誤魔化すように口を動かした。


「う、うまく浮かせれば仕留めれるな」 


 地上では俊敏に動いている。だが、空中に放ってしまえばその俊敏性も役にはたちまい。

 問題はどうやって浮かせるかだが。


「そうね。地上じゃ埒が明かなそうだし。"保険"頼むわよ」


 奴は再び向きを変え、此方に近づいてくる。


「了解、任せろ」


 彼女は一気に加速し奴に向かって走り出した。 

 あまりに突然だったため心の準備はしていたとはいえ、いきなり振り落とされそうになる。


「うおっ!?」


 だが、地獄は此処から先であった。


 まず、エミリアは走りながら身体を傾け手事な石を拾うとすぐに奴に向かって投擲する。

 これは悠々と避けられるが奴の動きが数瞬ではあったが止まった。

 彼女は跳び空中で体を捻ると、奴の腹に向け足を振り下ろしたのだ。


 この一連の動作だけでも俺の視界が目まぐるしく動き、気分が悪くなってくる。

 やばい、やばい! 酔う、酔うって!


 すると、彼女は舌打ちをすると後ろに大きく跳び後退した。


「ど、どうした」


「伸して蹴り上げようかと思ったんだけど、なんか直前で横に跳ばれて避けられた。それより吐かないでよ」


 両者は立ち止まり睨み合いを始めた。

 これはアレだろうか。達人同士がよくやる先に動いた方が負けるとか云々の。

 テレパシーでアンナに指示を出し、口も動かす。


「まだ大丈夫だ。それより攻撃してもらって無理矢理動かす」


「その隙にって分けね。了解よ」


 理解が速くて助かる。


「ユニ」


 アンナはワンドを振り上げ、止まっている男の頭上に雷雲を発生させる。

 そして、振り下ろしサンダー! と叫び落雷を発生させた。


 落雷が発生する直前、奴は雷雲の存在に気が付き、逃げるために移動を開始しており攻撃は地面に落ちていた。

 この時奴は雷雲及び落雷に気を取られ、動きを読み接近していたエミリアの存在に気がつくのが遅れていた。

 彼女はスライディングし奴の手を払うと体を回転させた後、奴を蹴り上げようと足を押し上げる。


「……くっそ!!」


 確かに奴の体は押し上げられ"少しだけ"宙に浮いていた。しかし、タイミングよく奴は体を傾けていたのだ。

 そのため、うまく宙に押し上げる事が出来ず、そのまま倒れこみ今度は四つん這いになってエミリアに如何わしい目線を向ける。


 リバーシブル仕様かな? と思ってしまうがよく考えるとまずい状況であった。


「まっず!」


 すぐに体勢を整えようとするが無理に押し上げようとした結果、少しばかり整えるまでに時間を要する羽目になっていたのだ。


「パアアアアアアアアンツパアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!」

 

 無論、奴は待つ気は毛頭なく奇声を上げながら、組み伏せるため飛びかかっていた。


「プロテクト!」


 だが、俺が発生させた防壁とぶつかりエミリアを組み伏せる事は叶わない。


「ナイス!」


 その隙に立ち上がると右手を握りしめつつ振りかぶると、顔目掛けて振りぬく。

 拳は見事頬に命中し殴り飛ばしていた。

 ワンバウンドし、地面に倒れこむものの直ぐに四つん這いの状態になり今度はアンナに如何わしい目線を向ける。


「アイツゥ、キケエエエエエエン!」


 俺達へと向けられていた矛先が、アンナに変わっていたのだ。


「へ? え、えー!?」


 ブリッジをしていた時よりも速く、魔法を警戒しジグザグに動きつつアンナに迫っていく。


「そりゃそうよね……!」「アンナ逃げろー!」


 俺達はそれぞれ声を上げ、エミリアは追うようにして走り始めた。


 逃げても追いつかれると悟ったのか、落雷を幾つか落とし抵抗するが、予備動作があり予測され難なく避けられていき懐まで飛び込まれていた。


「パアアアアアンツウウウウウウウ! マアアアアアアアアアル」


 奴は奇声と共にスカートを掴み、まくり上げようとする。


「い──」

「ミ──」


 咄嗟に左手でスカートを抑え。


「──やー!!!」

「──エッ」


 適当に振るったワンドが奴の頭に命中し、掴んでいたスカートの一部を毟り去りながら殴り飛ばされていた。


「わお……」


 その光景を見たエミリアは思わず呟き次第に速度を落とし、終いには立ち止まってしまっていた。

 奴はというと、地面に倒れこみ必死に立とうともがいているが、生まれたての子鹿のように直ぐに倒れている。


「うっぷ。脳震盪のうしんとうだな。多分」


 知識はあまりないが、視界が揺れ体が思うように動かせず、結果あぁなっているのだろう。と言うか、俺のあの状態よりよっぽどあいつの方が変質者だよな。


 アンナはミニスカートのように短くなってしまったスカートを必死に抑え、涙目でワンドの先を奴に向けていた。

 

「アクア……バズーカ!!!」


 放出された水は奴を飲み込み、流していく。

 程なくして、攻撃を辞め変身を解き彼女はその場にペタンと座り込んでしまった。


「あたしらの戦闘あんまり意味なかったわね。立てそ?」


 座り込んでいるアンナに歩いて近づき、攻撃の後を見ながらそう言っていた。

 顔を横に振り立ち上がれないと意思表示をする。


「分かった。じゃぁ俺達でどうなったか見てくる」


 そう言い残すと、俺達はあの変質者が飛ばされた方に走っていった。


 1分後。遠くまでは飛ばされていなかったようで、気絶している対象を無事発見した。

 だが問題もあり、野球ボールほどの大きさの黒い球体が、奴の胸から排出され飛散し消えてく光景を目の当たりにしていた。


「何よ。アレ」


 エミリアは怪訝そうにささやいてた。


「わ、分からん。が」


 アレが[心の汚れ]なのだろう事は直ぐに分かった。そして、[浄化]という行為を出来ている事も。

 だが、如何せん実感沸かないでいた。

 自分で[浄化]を行えていないせいだろうか。まぁ、何にしても任務はコレで完了だ。

 

「が? 何よ」


「いや、なんでもない。それよりコレどうする?」


 誤魔化すようにして先ほどまで存在したクマが消え、何故か幸せそうな顔を浮かべて倒れている奴を指差す。


「気になるんだけど。まぁいいか。あの地区まで連れてくしか無いんじゃない?」


 不服そうに言われたが、無理に聞き出す気も無いらしい。


「それしかないかー」


 好都合だったためそのまま流す事とした。


「後で謝っとかないよね」


 彼女は奴の元まで歩いて行き、奴の足を掴みあげる。


「だなー。止めきれなかったもんな」


 リラックスだとか言い安心させておいて止めきれなかった。エミリアと2人で本気で止めきるつもりだった。終わってみるともっとこうしておけば。と思う事が幾つかある。例えば、ケチらずに変体を使用すればアンナに怖い思いをさせずに済んでいる。

 それに、今回ばかりは多少でも役にたてた自覚すらもない。

 内心とても悔しかった。

 

「あー、そう。ちゃんと守ってくれてありがとね」


「え?」


 突然感謝の言葉が飛んできて、気持ちがブルーとなっていた俺は驚く。


「なんでそこで疑問もつかな。組み伏されそうになった時よ」


「あぁ、そのことね」


 彼女は奴を引きずりながら歩を進ませ始める。


「はぁ。なーんか、落ち込んでる見たいだけどさ。基本的に作戦考えたのあんただし、うまくいってないのもあたしのせいだし。アンタが気負う必要なんてなんもないわよ。ずぶ濡れにされたけど、最初穏便に済ませる手考えたのもあんただし」


 一言多かったが急に慰められ、俺は目をパチクリさせていた。


「……なぁ、お前。熱ないか?」


「はぁ!? 折角人が慰めてあげてるのにその返しは無いんじゃないの!?」


「た、確かにそうだな。ごめん。……後、ありがとう。少し、楽になった」


 少し間があき、呆れた口調でこう返って来た。


「どう致しまして」

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