【想いのその先に】 第十四部
俺は校門を出て、すぐそばに駐車していた車の元へと歩み寄る。そして、窓を三度ほどノックする。すると、窓がすうっと下がっていく。
「すみません道端先生。わざわざ迎えまで来ていただきまして」
「いや、構わないよ。そんなことよりも早く乗りたまえ」
「はい」
俺は道端先生の車の助手席に乗り、シートベルトを締める。
「それじゃあ行くよ」
「はい、お願いします」
そう言って、道端先生の車は走り出した。
「とりあえず、卒業おめでとう叶汰君」
「ありがとうございます」
「それにしても、こんなに早く来て良かったの? 他にも別れを告げるべき人がいただろう?」
「いいんです。今の僕の一番はユメですから」
「そうだね」
道端先生は道が真っ直ぐになったことでぐっとスピードを上げていく。
今日。俺は卒業式を受けて、無事高校を卒業。それはすなわち後一週間でユメとの関係を終わりすることを意味していた。しかし、俺はその一週間を待たずして今日をユメとの別れの日にすることを決めていた。
それは、初詣の時に奈々実に助言をもらった次の日に決めていた。そして、そのことを道端先生にはすぐに伝えていた。そして、以前同様ユメの検査が終わり次第また元どおりにしてもらうことと。このことはユメには言わないことを先生には告げていた。
「それにしても、本当にすまない叶汰君」
「なぜ、謝るんですか先生?」
「私の検討が浅いばかりにすぐにユメちゃんを返せると思っていたが結局……」
「いいんです。先生。むしろ先生には感謝すらしてます。先生も始めに言っていた通り、今頃ユメと僕との関係は切れ、こうして今日会うことすらできなかったのですから。だから、先生には感謝しているんです。謝らないでください」
「ありがとう叶汰君」
ユメと別れたあの日以降。俺とユメは一度として会っていなかった。ユメと会えなくなってから一ヶ月を過ぎたあたりから先生からは一週間に一度経過報告を受けるようになった。先生には悪いがその報告はどれも大したものではなかった。ただ、ユメがまだ道端先生の研究場にいることを知らせるためのものだったと思う。
でも、決して道端先生を恨んでいたりはしない。さっき先生にも言ったが感謝している。
ユメと俺の関係は決して切れていてもおかしくはなかった。それを最後までこうしてつなぎとめていてくれたのはまごうことなき道端先生なのだから。
「それにしても、本当に研究所からでよかったのかい?」
「はい。大丈夫です」
俺は今日の再会の場所を道端先生の研究所に指定していた。
「でも、私が連れて来ていたらもっと長い時間一緒にいられただろう?」
「そうですね。ユメとの時間を大切にするならそっちの方が良かったかもしれません」
「なら……」
「でも、今日はユメと別れるために来てるんです。時間ではなく、思い出を大切にしたいんです」
今までの俺はこうやって先延ばしに先延ばしにしていた。そうしてユメとの時間ばかりを考えていた。でも、今日はそうじゃない。時間も大切だけど、ユメとの思い出。ユメとの繋がりが今日は何よりも大切だった。だから、一緒にいることよりも。一緒にいた時のことを大切に今日はしたかったのだ。
「だから、研究上ってわけか……」
「えぇ、そうです」
再会の場所を研究所にした理由。
それは俺とユメが初めて出逢った場所だから。
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