【見えないからこそ、強きチカラ】 第三部
「いてっ!」
「きゃっ!」
バタッと俺は尻餅をつく。
「叶汰、大丈夫ですか?」
「俺は、大丈夫だよ」
その時、俺は何かにぶつかったことに驚いただけで大した怪我はしなかったし、別になんとも思わなかった。しかし……
「ふぇぇぇぇぇぇぇん……」
俺にぶつかって倒れた少女は大泣きしていた。
「ごめんね。大丈夫?」
俺の母さんがその少女に駆け寄って、声をかける。しかし、少女は泣き続けるばかりで返事をしない。
「お母さんかお父さんはどこかな?」
俺の母さんがそう問いかけると少女は一瞬泣くのをやめた。しかし、次の瞬間にはまた泣き始めてしまった。それどころか、さっきよりも大きな声で泣き始めてしまった。
「迷子ですかね?」
「そうね。こんな小さい子が一人でお祭りへ来るとも思えないし……」
ユメは俺を立たせながら少女の頭を撫でている母さんに問いかける。
「どうしますか?」
「この子をこのままにしておくこともできないからね……」
困った面持ちでいる母さんとユメを見て、俺はその少女へと歩み寄る。
「なぁ」
「ふぇぇぇぇん……」
「おいって」
俺は両手で目を覆っている少女の両腕を掴み、広げる。
「叶汰っ!?」
もちろん、俺の母さんは驚いた声を上げる。
「なまえ、なんていうの?」
少女は顔を真っ赤にさせ、そして目元には涙を浮かばせながら俺の行動に驚いた表情で俺を見ていた。そして、必死に言葉を紡ぐ。
「な、なみ……」
「ななみか。いっしょにいかない?」
「いっしょ? いく?」
「ななみもおまつりにきたんだろ?」
俺の問いかけにコクリと頷く。
「なら、いっしょにいこう」
奈々実は少し考える仕草を見せ、そして最後には言葉に再度コクリと頷いて見せた。
「あらあら、うちの子ったら……」
「お母様、何を考えているか存じ上げませんが、その企みに満ちた表情はやめてください」
「ほら、いくぞ」
「う、うん」
俺は奈々実の手を掴み、再び母さん、ユメ、俺と奈々実で歩き始めた。
「ななみはなんか食べたいものある?」
「えっ、いや、わたしは……」
「そうなのか? おれはたこやきにりんごあめにチョコバナナも食べたい」
「叶汰ではそんなに食べられませんよ」
「食べられるもんっ!」
ユメの言葉に俺は必死に反抗する。
「あれがいい」
「ん?」
俺の隣にいた奈々実がある方向を指差していた。
「綿あめ? なにそれ?」
「砂糖菓子の一つで、白ざらめを原料とした食べ物です」
「ユメ、それって美味しいの?」
「はい。ふわふわして、さらに甘くて美味しいかと」
「なら、それ食べる!」
「えっ、いいの?」
「いいよ。今まで食べたことなかったし。いいよね母さん?」
「えぇ。もちろん」
「ほらいくぞ」
「でも、わたしお金ない……」
「大丈夫、お金はお姉さんが払って上げるから」
母さんの言葉で奈々実はパァっと笑顔になる。
「ありがとう、おばさんっ!」
「おばっ……!? い、いえいえ〜」
「子供は正直ですね」
「ユメ。何か言った?」
「いえ、何も」
俺と奈々実は綿あめのお店の元へと向かい、おじさんに綿あめを二つ頼む。
「はいおまちー!」
「ありがとうっ!」
二つの大きな綿あめを俺たちにそれぞれ一つずつおじさんは手渡し、俺と奈々実はそれぞれの綿あめを頬張る。
「あまーい!」
「おいしいっ!」
「それは良かったわね」
そう言いながら母さんは俺の綿あめを少し手で取って食べる。
「あぁ! 俺の綿あめっ!」
「少しくらい、いいじゃない〜」
俺が母さんに怒っている横で奈々実はユメの元へと近寄る。
「お姉ちゃんもいる?」
「頂いてもいいんですか?」
「うんっ!」
ユメは奈々実に頭を下げてから、ユメの差し出す綿あめを一口頬張る。
「とても美味しいです」
「よかった!」
「ほら〜、ななみちゃんはあんなに優しいのに〜」
「ななみは関係ないだろ!」
「意地悪な男の子はモテないよ〜」
「うるさいっ!」
「くすっ……」
俺と母さんの喧嘩をとなりで静かに奈々実とユメは笑っていた。
「何がおかしいんだ!」
「ごめんね。でも、かなたくんってとってもおもしろいんだなぁって」
「あ、当たり前だろ!」
「あら、これは予想外のポイントね」
「母さんはうるさいっ!」
俺の言葉にさらに笑い始める奈々実。
「奈々実っ!!」
すると、人ごみの中から奈々実を呼ぶ大きな女性の声がする。
「あ、お母さんだっ!」
奈々実がお母さんを目視してから間も無くして、俺たちの目の前に奈々実のお母さんが現れる。そして、すぐに奈々実を抱きしめた。
「ずっと探してたのよ!」
「うん。でもねママ。かなたくんたちといっしょにいたからだいじょうぶだよ」
「えっ、あ」
奈々実のお母さんは俺たちを見て、すぐに立ち上がり頭を下げる。
「すみません。娘がご迷惑をおかけしました」
「いえいえ、そんなことありませんよ」
「もしかして、この綿菓子もあなた方が?」
「えぇ」
「それは……」
奈々実のお母さんがカバンの中から何か取り出そうとするのを俺の母さんが手で制す。
「大丈夫ですよ」
「しかし、助けていただいて、さらに綿菓子の代金もなんて……」
「叶汰、ななみちゃんと一緒にいれて楽しかった?」
「べ、べつに……」
「叶汰、嘘を重ねるほど男の価値は減りますよ」
ユメに不意に諭される。
「た、楽しかったです!!」
「とまぁ、我が子もこう言っていますので大丈夫ですよ」
奈々実のお母さんはまだ少し了承し難い表情をしていたが、最後には俺の母さんの優しさを素直に受け入れた。
「今日は本当にありがとうございました」
「じゃあね、かなたくん!」
「おう、またなっ」
俺は力一杯手を振って来る奈々実に俺なりに精一杯手を振った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます