【時間とは過ぎゆくもの】 第二部

 昨日はいつもよりも早く起きたおかげもあり、朝は七時ごろにはしっかりと起きることができた。と言っても、俺の場合家事全般はユメに任せっきりだから、朝に行うことはいつも通りのことだけ。朝の日課を終え、俺はリビングでテレビニュースを見ていた。


『最近多いですね。アンドロイドの窃盗事件』

『ホントに、子供の大切なパートナーであるアンドロイドを盗むなんて本当に許せない行為です』


 俺が見ているニュース番組はいつもこの時間にやっているものだ。時折、休日に早く起きて、だらだらと見ているものだが、今日の内容は最近多発しているアンドロイドの窃盗事件についてらしい。専門家らしき人や、コメンテーターを交えた意見交流型の放送をしている。


『今回、多発しているアンドロイド窃盗事件ですが、犯人の狙いはアンドロイドに内蔵されている希少金属とされています』


 専門家らしきメガネをかけた男性がフリップを交えながら解説している。


『そもそも、アンドロイド自体、国として作られ、管理されているため今のように日本中に普及されていますが、これを個人でまかなおうとすると年に数百万の維持費を用います』


 専門家が指し示すフリップにはアンドロイドの絵を中心に様々な費用が書かれていた。


『そして、それだけの維持費に見合うほどの価値がアンドロイドにはあるということを意味しています。それは、現在の子供達の姿を見れば、皆さんもお分かりでしょう』

『そうやなぁ、私たちなんか、身長がこれっぽっちしかないのに、今の子はすごく高いですね。こないだ道を歩いてたら、ほとんどの子供に抜かされてて、驚きましたよ』

『それは、あなたが小さいだけでしょう?』

『やめてくださいよ、これでも気にしてるんですよ!』


 テレビからはコメンテーターなどを中心とした笑いが起こる。

 コメンテーターの言うように、最近の子供の成長は俺の親の世代に比べるとかなりすごい。実際、うちの父の身長が百七十あるかないかぐらいだが、俺は百七十後半はある。そしてそれは俺に限った話ではなく、今ではクラスで百七十を下回る男子は一人二人くらいなものだ。女子もその例外ではない。


『それに、最近では生活習慣の改善によって、子供達の学力も向上していますね』

『ほんとに、このないだどこかのグラフを見ましたけど、かなりすごいらしいですね』

『はい、最近では偏差値六十くらいの学生さんもさほど珍しくないほどになってきました』


 俺もこの間の模試の結果は確か偏差値にすると六十二くらいだったと思う。コメンテーターたちの言うことを実感として、認知することができる。


『少し話は逸れましたが、それだけアンドロイド自体には価値があります。それこそ、アンドロイドを売るなんてことをしたら一体数千万はするでしょう』

『うわー。それはすごいですね』

『はい、そしてそのアンドロイドの重要な基盤になってくるのが希少金属の存在なんです』


 専門家は次のフリップへと移行する。


『アンドロイドには脳の部分にこの希少金属が入っており、それによっていくつもの活動を維持しています。これがなければ、アンドロイドはほとんどの行動ができません。それこそ言葉すら話せません』

『それは、大切ですね……』


『はい、ですから、この希少金属はかなりの価値があります。それを狙い犯人たちは他の人アンドロイドを盗み、そこからこの希少金属を取るのです』

『しかし、その金属を盗んでアンドロイドの他の何かに使われるのですか?』


『もちろんです。そもそもこの希少金属は医療関係の機械に始まり、様々な機械に使われていたのです。ですから、庶民にとっては馴染み深いものではありませんが、そういった職種に就かれている人からしたら、とても重宝されるものなのです』


『そうなんですね〜』


 もとより、俺はユメのことをあまりロボットという認識をしていなかったから、今の話のようなことは意識したことも考えたこともなかったが、そう言ったものがユメにもあるんだと改めて思い知らされる。


『一つ質問いいですか』

『どうぞ』


 先ほど、身長の話をしていたコメンテーターの一人が専門家に質問を求める。


『その希少金属はどうやって取られるんですか? アンドロイドは人間の形をしているとはいえ、アンドロイドもまた金属でできていると思うのですが……』


 今、コメンテーターが言っていた通り、アンドロイドの大部分は金属でできている。それこそ、人間の皮膚であったり、筋肉や脂肪などはそれに近づけたものを使用しており、アンドロイドの感触自体は人間と変わりはしない。しかし、人間の骨であったり、脳などは金属でできている。また、アンドロイドには人間みたいに臓器を必要としないのでその部分にも金属がある。


『私も詳しくは分からないのですが、おそらく一般的に金属を切るようなものでアンドロイドを切断しているのだと思います』

『それは、残酷ですね……』

『アンドロイドといえど、人間の形をしているのによくもそんなことができますね』

『全くです』


 俺はそこまで聞いて、テレビの電源を落とす。一つとして時間がもうすぐユメと出かける時間になるから。そしてなによりも、これ以上俺が耐えられなかったからだ。

 俺の癖として、アンドロイドというものを全てユメと置き換えて考えてしまうことがある。俺にとってのアンドロイドがユメしかいないのだから仕方がないのだろうが、そう考えるとあらゆる事柄が恐ろしく、いてもたってもいられなくなる。さっきの話もそうだ。もしもユメが、窃盗犯などによって切られてしまうなんて想像すると、ユメからいっときも目を離せなくなる。だからこそ、心の中で必死にユメの無事を願う。そんなことぐらいしか、俺にはできない。


「叶汰、そろそろ時間ですよ」

「あぁ、行こう」


 俺はソファから立ち上がり、玄関へと向かう。

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