想いのその先に
園田智
【普通であって、普通ではない】 第一部
【普通であって、普通ではない】
誰かに恋をするとはどんな感覚なんだろう。そんなことをふと考える時がある。
それなりに歳を重ねれば、誰しもが芽生え始めるという恋心というものとは一体何なんだろうか。
恋と言われて、思いつくことといえば、胸が高鳴るとか、心臓が締め付けられるように痛むとか、その人のことを考えると夜も眠れない。なんてことがよく表現方法としてあげられる。きっと、どれも恋なんだと思う。もちろん、病気という考えも捨てきれないが、今はそんな場違いな考えは捨てよう。
俺もこれまで、それが恋ということに気がつかなかった。でも、これはきっと恋なんだと思う。何でかと聞かれると、正直分からない。でも、さっき言った通り、その人のことを考えると胸が高鳴るし、心臓も締め付けられる……。ってほどでもないけど、たまにキュッとなる時がある。夜は……、まぁ、眠れない日もある。
俺は生まれてこのかた、恋をしたことがない。でも、俺は彼女のことが好きで、彼女のそばにいたいとしっかりと思う。だから、俺は今日彼女に告白する。
正直この恋が結ばれるかは分からない。多少頭はいいけど、運動神経は普通だし、見た目も可もなく不可もない。そんな感じだと思う。でも、彼女とは誰よりも長く一緒にいたし、なんなら、常に一緒にいると言っても過言ではない。それくらいに俺と彼女との距離は近い。だから、この恋は結ばれると思う。
一つの点を除いては……
それでも俺は今日、彼女に告白する。成功するイメージなんて想像できない。そもそもできるやつなんているのか? いや、今はどうでもいい。
桜舞う中、彼女に俺は告げる。俺の精一杯の気持ちを。
「ユメのことが好きだ。俺の彼女になってくれ!」
俺の真剣な眼差しに対して、彼女の目はいつものような、特に緊張しているわけでも、嬉しそうでも、嫌そうな目でもない。ただ、いつものように俺のことを見つめて、俺の告白に対して返事を返す。
「
「は、はい……」
「無理です」
「えっ……」
舞い落ちていく桜が俺たちの前を次から次へと通っていく。そして、その光景が滲んでいくのを俺は感じて、気がつくと、自分が自室のベッドで寝ていることに気がつく。
「なんだ、夢だったのか……」
俺はベッドから起き上がって、カーテンを開ける。カーテンを開けると外から、眩しすぎるくらいの朝日が差し込んでくる。俺は、ぐうっと背伸びをして、一つため息をつく。
「本当に夢だったらいいのにな……」
そう、俺がさっき見ていたのは夢だ。でも、それは少し違う。実際に夢を見ていたが、その夢は実はつい二日前に俺が実際にやったことなのだ。だから、本当に俺はユメに告白したんだ。そして、フラれた。
それはあまりに呆気なく。あの夢を実は俺は二日連続で見ている。気持ち的にはもう大丈夫なはずなのに、俺の体がそうは言っていないらしい。それにしても、二日連続でフラれた夢を見るなんて、根に持っているにもほどがある。
もやもやとした感情を振り払うようにして俺は首を横にブンブンと降って、一回両手で頬を叩く。
「よし。学校行くか」
寝間着姿から、制服に着替え、玄関へと降りて行く。そして、玄関のドアノブに手をかけて大きな声で一言告げる。
「行って来ます」
俺が外に出て、ドアが閉まる前に小さな声で“いってらっしゃい”と声が聞こえる。もう何年も、この繰り返しをしているが、このルーティーンがすごく気持ちがいい。それが、俺の好きな相手ならなおのこと……
もともと、朝食は食べる派でない。俺がまだ小、中学生だった頃は毎日のように食べていたが、高校に上がると同時に、ギリギリまで寝たくて、朝食は要らないと言って以来、俺は朝食を食べていない。最初の頃は少し堪えるものがあったが、その日々が二年も続けば、人間は慣れるものだ。今ではなんとも感じなくなっていた。
ギリギリまで寝ているとはいえ、やはり眠くてところ構わず出てしまう欠伸を噛み殺しながら、俺は自分の教室の中に入って行く。
「叶汰、おはよ」
「おう、おはよ」
俺に声をかけて来たのは、高校三年間一緒のクラスとなった、
「今日も眠そうだな〜」
「あぁ、最近は少しいい睡眠がとれてない」
「何、誰かにフラれた?」
「正解」
「マジで……?」
「マジで」
「それは、すまん。冗談のつもりだったんだ」
「いや、お前が気にするなよ。笑ってくれたらいい」
「そんなこと言うなよ。もしよければ、俺が聞いてやるから」
「あぁ、ありがとう」
俺は晴人の隣の席に座る。時計を見ると、朝のHRまで十分ほど時間があった。これだけあれば、一通りは晴人に説明できるなと思ったので、晴人にこの間あった、俺についてのことを話す。
「この間、告白したんだよ」
「この間って、いつだよ?」
「二日前かな」
「ということは、土曜か?」
「あぁ」
そう、俺が告白したのは二日前の土曜日。春休みも終わり、学校が始まって一週間が過ぎた週末に俺は告白した。なんでそんなタイミングと聞かれると彼女と桜が綺麗だったからと言うべきか、なんと言うべきか……。
俺も正直、他にもいいタイミングがあったのではないかと、今になって色々と思って来ている。でも、終わってしまったことを嘆いてもしょうがない。そもそも、告白したのは確かに急だったかもしれないが、彼女に対する気持ちはずっと前からあったんだ。
「それで、その子のことはいつから好きだったんだ?」
少し、微笑みながらおちょくるように聞いてくる晴人。誰でも他人の恋愛話となると不思議と面白がるものだ。晴人が相手なら別に腹は立たない。
「かれこれ、十年以上かな?」
「それはすごいな」
「というか、俺が物心ついた頃からかな?」
「それは大層な一途さんなことだ」
俺の前で拍手を送ってくれる晴人。
「それで、その子は同い年なの?」
「どうだろ。よく分かんない」
「上か下も?」
「それなら、上だと思う。俺がまだ小さい頃の世話とかよくしてくれてたし」
「お姉さん系か。叶汰もなかなかいい趣味してるな」
「あぁ、ありがと?」
晴人はひとりでにふむふむと頷くと、さらに俺に聞いてくる。
「それで、そこまで叶汰のことを思ってくれている人なのにフラれたんだ?」
「う〜ん。分かるような、分かんないような……」
「ちなみになんて言われてフラれたんだ?」
「俺が付き合ってくださいって言ったら、無理ですって」
「それはまた、冷たいな……」
「まぁな……」
晴人にそう諭されて、俺はあの時の記憶を思い出して、少し身震いをしてしまう。そこまで大きなものとは考えていなかったが、いざ、それを表に出してみるとその想いの大きさにびっくりしてしまう。ましてや、二日連続悪夢のようにして俺の夢の中に出てくるのだから。
「それで、誰なんだよ。その相手って」
今まで以上に俺に近づいてきて、ほれほれと言わんばかりに耳元に手を当てて、俺の方に近づいてくる。晴人的に、周りに知られないような配慮なんだろう。
そんな晴人に御構い無しに俺は、普通の声のトーンで答える。
「ユメだよ」
「は?」
「え?」
先程までのこちらをおちょくるような笑みは消え、いきなり無表情になってしまう晴人。
「いや、すまん。叶汰、お前今、ユメって答えた?」
「そうだけど?」
俺の答えに、頭をポリポリと掻きながら、俺にもう一度といてくる。
「えっと、寝るときに見る夢じゃないよな?」
「何言ってんだ?」
今日の俺にそのツッコミはやめてほしい。かなり心に響く。
そして、俺の言葉にまだ納得が言っていない晴人が今度は耳ではなく、ぐっと顔をそのまま近づけてくる。
「ユメってたしか、叶汰の家にいるアンドロイドのことだよな?」
「そうだよ。晴人も前に会ったことあるだろ」
「なるほどな……」
俺の答えを聞いて、自分の席に深く腰掛けて、右手を顎に持っていって考える仕草を見せる晴人。
「あんまり、こんなことは言いたくないが叶汰」
「なんだよ」
「アンドロイドに恋するっておかしくないか?」
「そうか?」
「あぁ」
俺は晴人の言うことがあまり理解できない。もちろん、そのようなことは小さい頃から学校で勉強はして来ているが、それでも納得できない。
別に珍しいことではないと思う。例えば、科学の実験でこの世の始まりはビックバンが起きたと書かれていても、なんで、何もないところでそんなことが起きたのかと疑問に思うのと同じようなことだと俺は思う。科学的に言えば、確かにビックバンが起こったからこの世界ができたのかもしれないが、それが全てではないと思う。神様が作ったとという考えもあるわけだし、なんなら、そもそもこの世界というものは存在していたという考えもなんらおかしくない。
少し俺は人より少し捻くれているのかもしれないが、どうしても晴人の言うことがうまく理解できなかった。そうなんだろうなとは思いつつも、なぜそう思うのか、その理屈が分からないと言った感じだろうか。
その時、教室のドアが開き、担任の先生が入ってくる。それは去年も俺と晴人の担任だった先生だった。
「話はまた放課後な」
「分かったよ」
「あともう一つ」
教卓の前に立つ先生の方を見ようとする俺を途中で引き止め、晴人は続ける。
「
「いや、
「じゃあ、絶対にこのことは言うな。いいな?」
「あぁ。分かった」
日直の号令とともに俺たちは立ち上がる。そしてまもなくして礼と言う言葉とともに、朝のHRが始まった。
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