第107話 龍とドラゴンは別種族(2)

「ジェンの家族か?」


「いや、種族が違うからな。それはない」


 長大な蛇に似た幻獣である龍と、魔物のドラゴンでは魔力量も格も違う。説明されると、それもそうだと納得する。ルリアージェのように人族が神族のように変化する事例は特殊で、ジル達のような長寿の魔性であっても初めてらしい。ならば龍がドラゴンから生まれたら知らないわけがない。


 ジェンが空中で尻尾を振ると、雷竜がぺたんと地面に伏せた。頭も翼もおろし、可能な限り身体を平べったくする。


「ジェンの奴、雷竜を従えるか……相性は悪くないかもな」


 ジルがくつくつ喉を鳴らして笑い、パウリーネが呆れた様子で肩を竦めた。


「従える?」


「今、ジェンが尻尾を叩きつけた行為は上位者が下位の者に命じる仕草のひとつです。それに従った以上、雷竜はジェンの配下となるのですよ」


 リシュアが丁寧に説明してくれた。魔物には魔物なりのルールがあるようだ。得意げに尻尾を揺らしながら戻ってきたジェンを受け止めると、ライラとジルが結界を解除した。この場に害を加える存在がいなくなったという意味だ。


「くひゃぁ」


 地に伏せたまま寄ってきた雷竜が、ルリアージェの手に頭をすり寄せる。撫でて欲しいと強請る猫のようで、自然と笑みが浮かんだ。そっと触れた喉は見た目の硬さを裏切る柔らかさだ。すり寄せた喉を撫でられ、嬉しそうに目を細めるドラゴンだが……そのサイズは人が乗れるほど大きかった。


「……連れ歩くには大きくないか?」


 ジェンは小型化できるし、水晶に入れておけば目立たない。しかしドラゴンは連れ歩けないだろう。そう呟くと、ジル達が首をかしげた。


「小さくすればいいじゃないか」


「そうですわ。大きなままだと不便ですもの」


「封じる手もありますし」


 最後の物騒な提案はともかく、小さくなれるのなら便利だ。明らかに嬉しそうな顔をしたルリアージェに、魔性達は内心で首をかしげた。なぜこんな弱小生物に主は夢中になるのか……もしかしたら愛玩動物と勘違いしているのでは? 


 そういえば人族の都を訪れた際も、犬猫に餌を与えていた。その感覚に近いのかもしれない。


「おいで」


 ルリアージェが手招きすると、ドラゴンは洞窟の中を匍匐前進して、途中でお尻が引っ掛かった。後ろ脚が発達したドラゴンの形状では、洞窟の細い部分に入れない。


「小さくなれるか? このくらい」


 肩乗りサイズを両手でくるんと示して見せると、少し首をかしげた雷竜がぼんやりと光った。見る間に小型化して、両手に乗る大きさになった。立ち上がると、よたよた揺れながら近づいてくる。膝をついて待つルリアージェの手に、顔をすり寄せて懐いた。


「可愛い! 連れ帰れるか?」

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