第103話 準備はいいですか

 ドラゴンを見に行くツアーを優先することにした。これ以上、あちこちの国に迷惑をかけるわけにいかない。そんなルリアージェの決意を知らない魔性達は、大急ぎで準備を整えた。もちろん、必要な物資を各国の王宮から調達していく。そこに遠慮はなかった。


「テントは私が持っていくわ」


「食器は私が普段から用意してあります」


 パウリーネとリオネルは、ジルが用意した『旅の必需品』なるリストに横線を引きながら、残された品を眺める。


「このベッドは私が持っていきますが、確かリオネルはテーブルセットを収納していましたね」


 家具の欄にリシュアが横線を引く。お茶会に必要なテーブルセットや食器、カトラリー関係はリオネルが普段から収納空間に入れていた。リシュアはベッドを用意して、シーツや天蓋まで並べ始める。


「リシュア、ベッドは要らないんじゃないか? テントでは寝袋だろう」


 いつも常識知らずのレッテルを貼られるルリアージェも、旅の知識なら多少持ち合わせている。テラレスで指名手配されて逃げた期間は、テントと寝袋で過ごしていたのだ。そう告げると、お茶や料理に使うハーブを調達してきたライラが、横から口を挟んだ。


「やだ、ジルってば……リアに寝袋なんて使わせたの?! しっかり休めないじゃない」


「しょうがないだろ。あの頃はオレだって魔力を全開放してなかったし、配下はいないし、何よりルリアージェが楽しんでたんだから。キャンプだとはしゃいでたぞ」


「そ、それは言わなくていい」


 真っ赤な顔でジルの口を手のひらで覆った。しかしそのままキスをされて、慌てて手を離して狼狽うろたえる。こういうところが揶揄からかわれる要因なのだが、彼女に自覚はなかった。赤くなった頬を両手で包んで、直後に手のひらにキスされた事実を思い出して、手を振りながら自室へ逃げ込んでしまう。


「よし、今のうちに準備だ」


 ジルの号令一下、リストの品名を次々と揃えて横線で消した。優秀な上位魔性が揃っているので、水や食料を持っていく必要がない。肉は現地調達できるし、パンは大量にジルが保管した。1年ほどは困らないだろう。ハーブやお茶も揃え、乾燥した豆や芋類も店が開けるほど収納した。


「全部揃ったな」


 満足そうなジルに、気づいたリオネルが呟いた。


「ジル様、もしかしたら用意は不要なのではありませんか? 夜はこの城へ戻ればいいと思います」


「「「「そうね(だな)」」」」


 口を揃えて返事をしたが、慌ててジルが訂正する。


「いや、リアは野営も好きだから」


「用意しておくのは構わなくてよ。野営ならあたくしも興味があるもの」


 大地の魔女たる彼女の野営は、どこぞの木に結界を張って入り込む形だったので、みんなでテントに寝転ぶ形は知らない。初めての遠足のように、用意し過ぎた荷物が手分けして収納空間に詰め込まれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る