第95話 仮装する収穫祭(2)
昼間は普通の収穫祭だが、夕方から夜にかけて仮装大会が始まる。地元のお化けだけでなく、他国から来た招待客や観光客も仮装するので、様々なお化けが練り歩くのだ。
仮装の対象は『恐れられるもの』という括りがあり、お化けや魔物など夜の生き物が主流だった。一部には、数人がかりでドラゴンを模した張りぼてを被る集団もいると聞く。
特に仮装しない者は、人ならざる者のフリをするために仮面を被るのが一般的だった。
「リア、こっちで仮面が売られてるわ」
「これなんて素敵」
少年ライラと男装中のパウリーネだが、どちらも普段の口調が抜けないので外見と違和感がある。しかし祭りの間は周囲も細かいことは気にしないらしく、足を止めて見つめるような不躾な者はいなかった。
「私ならこっちだ」
仮面をひとつ選ぶ。赤紫の仮面に白と金を使って、蔦のような模様が描かれていた。蝶や鳥の絵が散りばめられた華やかな仮面は顔全体ではなく、顔の上半分を覆う形だ。鼻の頭から上を覆う仮面を当てて見せると「似合うわ」と声が上がった。
緑色の葉っぱをたくさん並べたような目を覆うタイプの仮面をライラが見つけ、隣のパウリーネが獣の毛を使った猫の仮面にお金を払った。
「ジル達はどうする?」
尋ねると、バッグから出した振りを装いながら、収納空間からそれぞれに仮面を取りだした。羽を広げたコウモリのような黒い仮面はジル、リオネルは虹色の尾羽がついた白銀の仮面、意外だったのはリシュアで目元だけ隠す布の仮面を見せる。
「それは……もしかして」
リシュアの治めていたサークレラの民族衣装の布に似ていた。帯に使うしっとりして厚い織物で作られ、金糸や銀糸が織り込まれた煌びやかな模様で、全体に濃緑色をしている。アイマスクのように目元だけを隠す形で、後ろで結ぶようになっていた。
「ええ。民族衣装の帯を作るついでに頼みました。以前にこの国の祭りに招待されましたので」
リシュアが国王として君臨した期間は長く、いつの祭りに招待されたのか聞いても頭が混乱するだろう。早々に興味を引っ込めたルリアージェは「見せてくれ」と帯生地のマスクを手に取って眺めた。顔に触れるためか、滑らかな柔らかい生地で作られている。
「綺麗だ」
「ありがとうございます、きっと職人も喜んでいるでしょう」
にっこり笑って返却されたマスクをしまうリシュアの言い方に、やっぱり職人が存命していないくらい昔の話だったと頬が引きつった。
「リア、仮面が決まったら購入してしまって……少しお茶をしない?」
足が疲れる頃を見計らって気遣うライラに頷き、ルリアージェは手を繋いで歩き出す。後ろから近づいたジルがさりげなく反対の腕を絡め、満面の笑みを浮かべた。
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