第80話 勢力争いより模様替えが重要(1)
「ツガシエの王族を選べばよいのです」
リオネルの提案に、しばらく考えたリシュアが同意した。
「確かに、その案が一番被害が少なくて簡単ですね」
この北の大国ツガシエの王族は滅ぼしてしまった。
傲慢ながらも王族が管理していた貴族や国民は、女王蜂を失った蜂の巣と同じだ。誰か統率者がいなければ、あっという間に他国の餌食となる。自滅するだけならまだしも、他国に流れ込んで治安や財政を乱す要素だった。
国境を接するウガリス、アスターレン、リュジアンは難民の影響をもろに受ける。リュジアンはサークレラの自治領となったため、最終的に一番豊かなサークレラに流れこむはずだ。小国であるウガリスは、海に面した豊穣地テラレスへ助けを求めて共に崩壊する可能性が高かった。
それらの不安を一番簡単に取り除く方法は、ツガシエを纏めて導く新しい女王蜂を置くこと。
すなわち、ツガシエの王族を新しく作ればいい。そこに血の繋がりや継承権の有無は関係なく、他国が認めるだけの理由と彼らが満足する利益を提示すればよかった。
「問題は、誰を王族にするかですが」
リオネルが眉をひそめた。彼は魔性の力量や交友関係には詳しいが、人族の世は興味が薄い。ましてやここ1000年封印されていたため、余計に疎くなっていた。逆にずっと人の世にいたリシュアは、記憶をたどってひとつの答えを導きだす。
「政権争いに敗れ、ツガシエから放逐された先代王の弟がいましたね。その血筋がまだ途絶えていなければ、受け入れられやすいと思いますよ」
「私が調べてくるわ」
聞いていたパウリーネがすっと空中に溶け込む。魔法陣がわずかに光って消えた。水の魔王が消滅したあと、一気に知名度が上がったパウリーネは、自らの元に
水の魔王の後継者として実力を評価されているのだが、本人にそのつもりがない。ただ便利な手足が遠くまで伸びるようになった程度の認識だった。
「……ジル様にご提案しておきます」
「私も情報を集めましょう」
サークレラの国王だったコネやルートは、別の名前を使っても利用できる。いずれ人の世から身を引くつもりだったリシュアは手を打っていた。パウリーネに出遅れるわけにいかない。主達の役に立つのは、魔性にとって最上の喜びなのだから。
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