第79話 ひとつの国の行く末(2)
「地に食わせるのか?」
「天災が一番簡単でしょう。すでに王宮が沈んだのだから、大きな街や国全体が飲まれてもおかしくないわ」
にっこり笑うライラの意見に、リシュアが同意した。
「確かにそうですね。国ごと飲んで人口を減らせば持ち込まれる人災や疫病も管理しやすいですし」
「……ジル様、ちょっとお時間をいただきます」
放った諜報が何か掴んだのか、リオネルが一礼して影の中に沈んだ。転移と違う不思議な固有能力を揮う金髪の配下を見送り、ジルはひとつ息をつく。
「その作戦はひとつだけ大きな問題がある」
すでに気付いている3人は顔を見合わせて苦笑いした。立派なテーブルの空いたスペースに、リシュアがお茶の用意を始める。ライラは取り出した長椅子を並べ、クッションを用意するパウリーネが並べていく。
「……ジル」
物騒な相談を聞いてしまったルリアージェの存在ゆえだった。立ち上がったジルが腰を抱いてエスコートし、長椅子に彼女を座らせる。青ざめているのは晩餐での出来事や毒のせいではなかった。
聞こえてしまった残酷な手段を彼らが選ばぬよう、ルリアージェは不安そうな眼差しで魔性達を見回す。その両手は膝の上で組まれていた。
「大丈夫、相談していただけだよ。まだ実行したわけじゃない」
「そうよ。あたくし達にとってひとつの提案にすぎないわ」
ジルとライラが断言したことで、少しだけ表情が和らいだ。鏡のように磨かれた黒曜石の床から、リオネルが姿を現す。緊張した主達の様子に不思議そうな顔をした。しかしすぐ報告を始める。
「ジル様、風の魔王ラーゼンの側近を捕らえました。間違いなく魔王本人が関与しております」
捕らえられた魔性の処分について口にしない狡猾なリオネルに、ジルは許しを与える頷きを返した。
「かしこまりました」
そのまま何もなかったように、紅茶の準備を始めた。慣れた手つきのリオネルが、それぞれの前に紅茶のカップを並べていく。優雅に注がれたお茶が、美しい琥珀色の波を立てた。ハーブだろうか、すっきりした香りに心が落ち着く。
「……できるだけ騒動を大きくしないでくれ」
人族は魔族とは違う。強さを貴ぶ傾向は多少あるが、それでも優しさや弱者を庇う一面も美しいものとして評価してきた。魔族から見れば脆弱な玩具だとしても、必死に生きているのだから。
「リアは心配しすぎなんだよ。オレ達だって、リアの意見に逆らって滅ぼすほどツガシエに思い入れはないさ」
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