第70話 鈍さと純粋さは最強の武器らしい(2)
「リア、何かされなかった?」
「触れられてたら清めますわよ」
ライラとパウリーネが心配そうに近づく。しかし後ろから抱き着いたジルが、ライラを近づけなかった。触れようとする彼女の手を掻い潜って、ルリアージェを引き寄せる。
「ちょっ……ジル! いい加減になさい。そんな狭量じゃリアに嫌われるわよ!」
「リアはそんな酷いことしないよな?」
「捨てられてから後悔すればいいわ」
ふんと鼻を鳴らして怒りをぶつけるライラに、ジルは舌をべっと見せて子供じみた所作で応戦している。
「……捨てる気はないが」
溜め息をついたルリアージェは、複雑な心境で彼らの幼いケンカを見守る。万が一にもジルを捨てたら、彼は何を仕出かすか。それこそ世界を滅ぼしかねない。そこまで執着されている自覚はあった。だから捨てるという選択肢はないのだ。
首にかけたチェーンの鍵を手にとって見つめた。曇りのない銀色は何の金属だろうか。銀ならば人の手が触れれば曇るものだし、触れなくても色が黒ずんでくる。しかし鍵に刻まれた文様も含め、細部まで美しい光を放っていた。
肩に乗った炎龍も一緒に覗き込むのを、撫でてやってからブレスレットの水晶の中に戻した。
「ジル様」
姿を消していたリオネルが影から現れると、ジルの耳元で何かを告げた。一瞬だけジルの顔が苛立ちに歪むが、ルリアージェの視線に気付いて笑みを作る。
「どうした?」
「……もう少し状況がはっきりしたら説明するから待ってて」
不思議と誤魔化されたとは思わなかった。以前のジルなら「リアには関係ない話だよ」と言いながら、別の話題に誘導しただろう。しかし今回は「今は話せない」と告げたに過ぎない。後で説明すると言うのなら、待てばいい。
「わかった」
納得したルリアージェにライラが溜め息を吐いた。
「この男に甘い顔をしていたら、いつか
「神族や魔族は人を食べるのか?」
初めて聞いたぞと無邪気に尋ね返すルリアージェの純粋さに、ライラは逆に赤面して「違うわ、あたくしは人食いなんてしないわよ」と必死に否定する。首をかしげるルリアージェに悪気はなく、見ていた魔性達はくすくす笑い出した。
鈍い主をもつと、恋愛すらままならない――苦笑いする最強の魔性が絶対に勝てない美女は、表情をふわりと和らげた。
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