第59話 与えられた役割(3)
ある意味、水の魔王より火の魔王の方が性格的に向いていたのかも知れない。
いわゆる相性が悪いのだ。ジルとトルカーネは水と油、絶対に混ざらない性質の持ち主であり、互いに嫌悪している。トルカーネのどこを突けば一番深く刺さるのか、誰よりも知っているのがジルだった。
「我が君」
心配そうにレイシアが声をかける。ちらりと視線を向けたトルカーネに、僅かながら理性が戻った。邪魔をされたジルが舌打ちする。煽った感情の炎が沈静化してしまった。
「ジル、失礼だぞ」
「リア?」
「見ればまだ子供じゃないか! そんな風に苛めては駄目だ」
魔性が外見で計れないと知っているはずの魔術師が、平然と彼を子供だと言い切った。それは人族から見ても彼の振る舞いが幼いというお墨付きだ。
「ぷっ、やだぁ! リアったら!!」
「いくら本当のことでも彼らが怒りますよ」
「苛めるという表現がまた……ふふふっ」
吹き出したライラに続き、辛辣なリシュアとリオネルが笑いを堪えながら、ルリアージェを窘めるフリで馬鹿にする。パウリーネにいたっては笑いすぎて声が出ない状態までいき、転がるように苦しんでいた。よほど気に入ったのだろう。
「ひっ……ひぃい…っ、も……むりぃ」
笑いすぎたパウリーネの
「どうしたんだ? みんな」
きょとんとしたルリアージェは、自分の発言が原因だと思っていないらしい。しかし当事者にとっては屈辱の発言だった。
「僕は子供じゃないっ!!」
再び感情を爆発させたトルカーネの後ろで、海の波が大荒れに荒れる。暴れる波は渦を巻いたり、台風のように激しい波しぶきを立てて騒いだ。水を支配する魔王の感情に引きずられているのだ。
「子供はみんな同じように言うのだな」
呆れ返ったようなルリアージェの言葉は、溜め息と一緒に吐き出される。それはトルカーネに残っていた僅かな理性を千切る引き金だった。
「僕は『役割』を果たして自由になるんだから!!」
音もなくひたひたと水面が後ろに引いた。先ほどの津波を優に超す、巨大すぎる波が作り出される。トルカーネの水色の瞳が怒りに輝きを放った。
「だから、死ね!!」
「ばっかじゃねえの?」
無自覚で煽るルリアージェを見守ったジルが止めをさした。その一言が決壊を切ったように、波が一気に迫る。眼前が水の影になり何も見えなくなるほど巨大な波が、ジルやルリアージェに襲い掛かった。
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