第52話 罪に見合う罰を(3)

「彼らはリアに手を出そうとした。あたくしならバラバラに裂いて城門に晒すわ」


「そちらは一度却下した案ですね」


「対象を国王にすれば、話は別じゃない? きっと国民も反対しないわよ。身勝手な欲望でサークレラの公爵夫人に手を出そうとして失敗し、断罪された国王ですもの。彼らの命で国が戦に巻き込まれずに済むなら、喜んで手伝ってくれるわ」


 ライラは目の前で這い蹲る男に不快感を滲ませた声で罪を突きつける。


「折角いろいろと仕込みをしたのに、使わずに終わるなんて」


 残念そうにパウリーネが嘆く。彼女の作った映像を映した水晶は、他にも映像が仕込んであったし、前サークレラ国王から賜った国宝級の宝玉として銘も考えたのだ。どうせ侮辱するだろう貴族らを都度断罪する予定だったのに、敵が余りに早く手札を切ったため、披露するチャンスを逃してしまった。


 他にもあれこれ仕掛けを考えていたのは、リシュアやリオネルも同様だった。いくつも用意したカードはすべて無駄になったのだ。溜め息をついた2人が顔を見合わせた。


「賢王などと、人の噂は当てになりませんね」


 リオネルは吐き捨て、国王であったルーカスを見下ろした。口を開こうとした男の頭を容赦なく踏みつける。呻いたルーカスに眉をひそめ、肩をすくめた。


「ジル様、処分をどういたしましょうか」


 引き裂いて捨てるか、尋ねる側近へジルが少し考える。許す選択肢はないが、ただ引き裂いても面白くない。大切なルリアージェを狙う愚策を実行した主犯を、どう料理するのが一番残酷だろう。可能な限り苦しめ、嘆かせ、己の罪を悔いて死なせたい。


「国王……王族だったな」


 賢王と讃えられた男の罪を暴いて、国民に裁かせるのはどうか。今回の国王の策はついえた。この男の行為によって、リュジアンはサークレラに宣戦布告される。国同士の戦いとなれば、これから冬の厳しい時期に入るリュジアン国に余力はなく、サークレラに勝てる筈がなかった。


 崩御した前国王の弟という肩書きのマスカウェイル公爵の妻に手を出した。それは弔いに沈んだ国民の気持ちを逆なでするはずだ。士気の高いサークレラが有利であり、また魔王クラスが5人も協力すれば勝てない戦などなかった。


「良い案を思いついた」


 笑うジルの無邪気な顔に、側近達は期待を滲ませる。逆にルリアージェは嫌な予感に眉をひそめた。今回の件があまり大事おおごとにならぬよう、制御できる唯一の人物だ。この物騒極まりない集団の良心である美女は、しかたなく口を挟んだ。


「やり過ぎるなよ」


「人族がもろいのは知ってるから気をつけるさ」


 魔性と違い、何度も消滅を体験させたり永遠に閉じ込める方法は使えないが、人だからこそ苦しめる方法がある。そう匂わせるジルの返答を、ルリアージェは言葉通りに受け止めた。つまり自分の忠告を聞いてくれたと勘違いしたのだ。


 人として生きたルリアージェに、数千年を生きた彼らの思考へ理解を求めるのは酷だろう。こうして歴史に残る残酷な処罰が決まった。

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