第50話 不義の無実(2)

「こういったお遊びは久しぶりですわ」


 パウリーネも浮かれた声で笑みを浮かべる。椅子に置かれた魔道具は、一抱えもある水晶の玉だ。ライラが所有していたこの水晶は、映像を投影する目的で磨かれた。人の世には出回らぬ大きさの水晶は、無造作に椅子のクッションに乗せられている。


 その水晶を持ち上げたパウリーネが、自らの魔力を両手で流し込んだ。重さを感じさせない所作で、包み込むように抱き締める。しばらくすると魔道具である水晶が水色に光り、ゆっくりと元の色に戻った。


「これで私の準備は終わりですわね……ジル様とリア様は上手に獲物を釣ってくださったかしら」


 くすくす笑うパウリーネから水晶を受け取ったライラは、中を確認してから笑みを深めた。


「リアはともかく、ジルは上手に釣るでしょうね」


「どうせなら私を狙ってくれればよかったのに」


 少し残念そうなパウリーネが複雑な感情を込めた溜め息を吐いた。物騒な話題で盛り上がる女性達に、お茶を用意したリシュアが声をかける。


「お2人とも、こちらでお休みください。あとはリオネルの持ち帰る情報待ちです」


「お待たせしました。どうやら第二王女を宛がうつもりのようですね」


 公爵家の買い物を盗み見ていた王女を揶揄るリオネルが現れる。執事のこだわりとやらで、メガネとスーツ姿は崩さなかった。情報収集時くらい元のローブでも構わないだろう。リシュアの手からポットを受け取ってお茶のカップを用意する。


 手際のいい彼が紅茶を配り終える頃、外がすこし騒がしくなった。


「帰って来たわね」


 ライラが呟くと、パウリーネもリオネルもお茶菓子を用意し始める。部屋のテーブルに並べられた焼き菓子やタルトに、ライラが果物を添えた。


「ただいま! 皆も帰ってたのか!」


 元気いっぱい、機嫌よく帰って来たルリアージェが頬を緩ませる。どうやらジルが大量に買い与えた水晶にご満悦らしい。裏で行われている工作の数々など、彼女はまったく知らないのだ。


「おかえりなさい、リア。良い水晶はあった?」


「ああ、これをみてくれ」


 ご機嫌で机の上に戦利品を並べるルリアージェの後ろから、口々に帰宅への挨拶が向けられる。応じながら、大量の水晶を置いたルリアージェの前に紅茶が用意された。苦笑いしながら隣に陣取ったジルが肩を竦める。


「こっちの水晶は特にいいわ」


 地の精霊王の娘であるライラのお墨付きに、ルリアージェが嬉しそうに笑う。楽しそうな彼女の様子に、時折お茶菓子を勧めながら、魔性達は水晶談義に付き合った。

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