第45話 そうだ、王宮へ行こう(3)

 暖房効率を重視したのでしょうと説明してくれるリシュアに頷き、優雅にエスコートするジルに腕を絡めたルリアージェは足を踏み出した。床の下に温める何かが埋められているらしく、足元から温かい。王宮の扉をくぐってすぐに毛皮を預けたルリアージェは、ロイヤルブルーのドレス姿だった。


「見事だ」


 花瓶を飾る台も通路に置かれたソファや椅子、すべてが緻密な彫刻を施した芸術品だ。目を輝かせるルリアージェの姿に、隣を歩くライラが笑う。公爵令嬢だが未成年の扱いである彼女は足首にぎりぎり届くワンピース姿だった。


「リアお義姉さま、こちらなどお好みなのではなくて?」


 身体のラインを強調するドレスを身に纏うパウリーネが指差したのは、飾られた絵画の額縁だった。感嘆の息が漏れる彫刻の素晴らしさに、ルリアージェが表情を和らげる。蒼い瞳は忙しく周囲を見回し、彼女が足を止めるたび全員が立ち止まった。


 案内役の騎士も褒められて悪い気はしないので、彼らに付き合って足を止める。


「家具はあとでゆっくりご覧いただけます。先に陛下への拝謁を」


 さすがに時間がかかりすぎたのか、促す騎士の言葉にルリアージェの頬が赤く染まった。まるで御上おのぼりさんのようだと恥ずかしくなる。するとジルが上から銀髪の飾りを避けて額にキスを落とした。


「すまないな。妻は家具や芸術品に目がない。すぐに伺うとお伝えしてくれ」


 遠まわしに「もう少し見ていたい」と我が侭を優先させるセリフを吐く。王宮へ向かう前にジルに確認したところ、彼は公爵の役を演じるのを楽しんでいるらしい。かつてある古代の国を滅ぼした際、記憶を失った迷い人を装って王に取り入ったことがあるそうだ。


 ルリアージェは慣れてきたが、歴史を研究している者がいたら話を聞きたがるだろう。それが人の世に伝えられる歴史と大きく違う意味をもち、まったく別の意図で起きた事件ならば、なおさらだ。


「リア様、こちらは百合の意匠です」


 リシュアもルリアージェが喜びそうな模様や意匠を見つけるたびに声をかける。ご機嫌なルリアージェの姿に頬を緩めるジルとライラが咎めないため、寄り道は限りなく続いた。


 ふらふらと家具や装飾品に興味を惹かれながら歩く彼と彼女らが謁見の間に到着したのは、王宮に足を踏み入れてから1時間以上後のことだった。

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