第45話 そうだ、王宮へ行こう(2)

「水晶は細々と掘削を継続している程度ですね」


 リオネルも調査の結果を淡々と口にした。執事の格好や振る舞いが馴染んできた彼は、肩にかかる長さの金髪を首の後ろでひとつに括っている。長い衣を脱いで執事の禁欲的なスーツ姿になるだけでも、かなり印象が変わった。そこへメガネを装着する。本人曰く大切なアイテムらしい。


「観光するなら、この辺りか」


 広げた地図に魔法で印が付けられた。提案された場所は3箇所だ。かつての主要産業であった水晶の専門店が並ぶ水晶通り、山の地熱を利用した温泉が有名な宿、最後に王宮。


 王宮は観光施設ではない。王族が住まい、国の政治の中心となる場所だった。そもそも他国の貴族が簡単に入れるのか?


「この王宮はおかしくないか」


 追われる身になったルリアージェにとって、王宮は鬼門に近い。ジルを解放したテラレス王宮、想定外で破壊したアスターレン王宮、悪気はなかったのに国王崩御を招いたサークレラ王宮――不可抗力に近いが、騒動は常に王宮絡みだった。


「サークレラの公爵家だぞ。どうせ呼ばれるなら、最初に顔を出して後は自由にした方がいい。それにリュジアンは良質な家具が有名だ。王宮なら、さぞ立派な家具があるだろうな」


 そそのかすようなジルの言葉に興味を惹かれる。彼の黒い城にある私室も良質な家具は並ぶが、お気に入りのソファはリュジアン産だと聞いた。北の国は寒いため木々の成長が遅く、目が詰まった良質な木材が採れる。厳しい冬に長期間屋内に閉じこもる北は、家具に散財する傾向が強かった。


 家具職人は北を目指すといわれるほど、優秀な職人が腕を振るうリュジアンやツガシエの家具は素晴らしい。最近は目が肥えたルリアージェにとって、初めての国での素晴らしい家具の見学ツアーは魅力的だった。


「よし、王宮にいこう」


 観光地の一環として納得したルリアージェの決断を、遮る者は誰一人いなかった。





 テラレスの王宮は白い石が中心で、アスターレン王宮は青い屋根と漆喰の壁が美しく、サークレラ王宮は艶のある黒檀や障子の柔らかい光が特徴的だった。この王宮はそのどれにも似ていない。


 通された廊下はよく磨かれた木材が暖かな印象を与える。壁は木材と石による模様が描き出され、天井は低めに作られていた。荘厳な雰囲気を作ろうとする南側とは根本的に違う。

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