第39話 幻獣だらけの戦場(3)

 雷が風に分類されるなら、同じ風を操るリシュアで構わない気がする。しかし魔力量で変化する戦いの基本を知るルリアージェにしてみれば、心配は尽きなかった。


 リシュアの穏やかな側面しか知らないため、余計に不安が膨らんでいく。


「問題ない。アイツは魅了もあるし、風なら魔王に匹敵する能力を誇る。半端なレイリに負けるほど、耄碌もうろくしてないだろ」


 ジルが使った半端の単語に、ライラも頷いた。


「そうね、風の派生が雷と考えるなら、派生のみ特化した彼女がリシュアに勝てるわけないもの」


 ふわりと冷たい風が吹いた。ルリアージェは揺れる編髪を気にするように、ハーフアップの先に指で弄る。崩れていないことにほっとして顔を上げると、ジルが黒い笑みを浮かべていた。ライラも位置を隣から前に移動する。


「直接ケンカ売るとはいい度胸だ」


 低いジルの声が響き、ライラも15歳前後の外見から想像できない大人びた笑みを作った。ルリアージェは風が揺れたと感じたが、氷を纏った雷を放ったレイリの攻撃を無効化した余波だ。ジルの霊力が氷を無効にし、魔力が雷を消滅させた。


 ルリアージェの前に立つライラも、魔力による数枚の結界を展開する。球体でルリアージェを包み、僅かな傷も負わさぬよう守る姿勢をみせた。


 主を攻撃された2人の怒りは頂点に達している。


「あたくしが始末するわ」


「いやオレだ」


 突然見えない獲物の取り合いが始まり、ルリアージェは大きく首をかしげた。それからいつもの感覚で、簡単に言葉を発する。これが1人の魔性の運命を決定付けたと気付かぬまま……。


「半分ずつではダメなのか?」


「「半分」」


 2人は納得したらしい。ルリアージェは自分が発した残酷な命令を理解していなかった。彼らは『ルリアージェが望んだ通り、半分に引き裂いたあとでそれぞれに滅ぼす』と受け止めたのだ。何も知らずに「仲良くしろ」と的外れな発言をするルリアージェに、真実を教えてくれる人は誰もいなかった。

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