第33話 炎の魔王、屈辱の撤退(2)
理由が「トップに立つ性格をしていない」という人を馬鹿にしたものだった。魔王の地位は人気や実力だけで決まるのではない。世界を創造した
目の前にいる2人は、それを簡単に覆してみせたのだ。魔王を拒否したリオネルは、禁忌の存在である死神の配下に下った。死神ジフィールがリオネルを魔王候補から下ろした行為は、世界の
マリニスは切望した魔王の地位を
「よくも俺の前に顔を出せたな」
「お言葉を返す形になりますが、我が主の領分に勝手に入り込んだのは貴方の方ですよ。私は今の地位に満足しておりますし、我が君の意に従って貴方を排除するだけです」
沸いて出たくせに文句を言うな。一刀両断したリオネルは、性根の捻じ曲がり具合を表すように残酷な笑みを浮かべた。
「私の
次点で魔王になった貴方は私より下だ。丁寧な口調で、刃より鋭く心を切り刻む。リオネルは右手に白い炎を呼び出した。すべての炎の中でもっとも色が薄く、もっとも温度が高い。白炎を二つ名にもつリオネルは、魔性の中でもっとも炎の扱いに長けている。
いまだ白炎を完全に手懐けられぬマリニスを嘲笑うリオネルが口を開くほど、炎の魔王から冷静さが失われていった。だから、まだ未熟な魔王と云われるのだ。狡猾な水の魔王トルカーネや冷静沈着な風の魔王ラーゼンならば、この程度の挑発に引っかかりはしない。
「死ねっ! 消し炭となって消えろ!!」
マリニスの炎がリオネルを包む。陽炎が立ち上る高温を平然と受け止めたリオネルは、右手の白炎に吐息を吹きかけた。周囲の精霊を焼くほどの火炎の中で、白炎は混じることなく燃える。逆にマリニスの炎を吸収する形で、白炎は大きく燃えて鳥の形をとった。
使い魔のような扱いで、腕に止まらせた鳥の尾はかなり長かった。人格は存在せず、己の意思も持たぬ魔力の塊だが、鳥の形が一番安定する。
「あら、炎の精霊王の欠片ね」
ライラが指摘したとおり、白炎を手懐けた際に精霊王から与えられた形だった。どうやら精霊同士ならば区別がつくらしい。
「オレは戻るが、後片付けを忘れるなよ」
勝手に入り込んだ魔物や魔王を確実に結界の外へ放り出せと命じて、ジルは城を振り返った。気まぐれに作った城に愛着はなかったが、中にルリアージェがいると思うだけで嬉しくなる。
さっさと身を翻したジルは浮かれた気分で、緊迫した戦場を後にした。
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