第29話 サークレラ国王崩御(3)
取り繕う余裕もなく、トルカーネの声がかすれた。魔性を殺せるのは神族だけだ。魔性同士が戦ってどちらかが負けて砕かれても、核は残る。やがて核は魔力をかき集めて元の姿を取り戻すことが出来た。人間や魔性に封じられることはあっても、消滅させる能力はない。
神族が滅亡した今、魔性を殺せるのは――ジフィールのみ。それ故についた二つ名は、死神という不吉な響きをもつのだから。アズライルを呼び出して使役する能力はもちろん、彼自身の血が魔性にとって毒となるのだ。
「当然だろ」
ジルが呆れ顔で呟く隣で、リオネルが白い炎を生む。己の手を核に燃える炎で指し示すと、まるで転移したように炎がレイシアの身を包んだ。水の魔王の眷属であるレイシアは、他の魔王に属する者より火に強い。本来ならば相性が悪いはずのリオネルは、口元に笑みを浮かべて指先を揺らした。
火が勢いを増し、レイシアが膝をつく。
「やはり水の眷属とは相性が悪いですね。いつもより燃やしにくい」
楽しそうに笑いながらリオネルはジルに一礼した。
「申し訳ありません。獲物を横取りしてしまいました」
「構わないさ」
主従のやり取りに、スピネーの魔術が向けられる。ジルの魔法円ごと包む大きさの魔法陣が、リオネルも含んで鮮やかな光に包まれた。頭上から降り注ぐ氷の巨大な柱を見上げ、ジルはくすくす笑う。
「この程度でオレを潰す気か」
「囮でしょう。まさかこれが全力ではありませんよね」
相手の神経を逆なでする発言をしながら、リオネルが氷の柱を一瞬で蒸発させる。水蒸気が大量に発生した公園に、爽やかな風が吹いた。
「こら、リオネル。気をつけないと公園の木が傷つくだろう。リアは国ごと護れと命じたんだぞ」
「失礼いたしました。まだ加減がつかめておりませんので」
白い炎を全身に宿らせて謝罪するが、まったく反省していない。それどころか、リオネルが水蒸気を大量に発生させることを察していたジルは、水蒸気が木や人に触れる前に風で消し去った。魔力すら使わず、精霊を霊力と翼で従わせただけ。余裕という表現すら生易しいほどの実力差だった。
「トルカーネ、お前の側近は使えないな」
「……悔しいけれど、言い返せないね」
呟いたトルカーネの水色の瞳は怒りに揺らめいていた。スピネーとレイシアが魔力を高めるが、本気を出す前に主である魔王が感情を隠した仮面で応じる。
「でもね、今回は挨拶だけだから引くよ。近々また来るから」
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