第28話 迷惑すぎる来客(5)
そこで言葉が切れた。頭上で膨らんだ魔力に焦って見上げた夜空に、大きな魔法陣が広がっている。裏側から見た魔法陣を読み解こうとするより早く、ジルが結界を張った。
「ジル、周囲も」
守ってくれと、頼む前に雷が何本も落ちた。大地に落ちた雷が公園の土を走り、サークレラの大木を引き裂き、花火見物に集まっていた国民や観光客を襲う。
「きゃぁ!!」
「どこの攻撃だ!?」
「魔物がいるわ」
悲鳴と叫びがパニックを巻き起こす。公園内の国民は見上げていた空から降って来た雷で、魔族の姿を見つけて混乱した。人を押しのけて逃げる者、家族を捜して立ち止まる者、女子供を逃がそうとする騎士達、直撃を受けたのか倒れた者もいる。
「ジル、結界を大きく張れるか?」
「張れるが、人間だけ移動させた方が早い」
「戦うなら転送したほうがいいわね。ひとまず攻撃はあたくしが防ぐわ」
攻守が決まったらしい。ジルが魔法陣を呼び出して転移先の記号を変更する。青白い光は一瞬で公園全体を包み込み、直後、中の人間だけを転移させた。残された魔法陣をジルが指先で書き換える。筒状の結界で公園全体を包んだあと、長い黒髪を揺らして空を見上げた。
雷による攻撃により壊れされた屋台や机などが散乱する公園の芝に、緑色の魔法陣が広がる。一瞬だけ光を放った魔法陣は、大地に溶けて消えた。その円の中央で少女が笑う。自信に満ちた笑みを浮かべる彼女は、狐の大きな尻尾を左右に振った。
「さて準備完了だ。遊んでやるから下りてこい」
挑発するジルの隣に、黒い円が生まれてリオネルが現れる。大地に発生した黒い円は光を吸い込む闇で満たされており、まるで闇が人型を取ったような錯覚をもたらした。
「なんだ、来たのか?」
「戦いならば混ぜてください」
片眉を持ち上げて尋ねる主人へ、眷属は苦笑いしながら一礼してみせた。彼らの間に緊張感はない。3人の魔王と互角以上に戦った彼らにしてみれば、魔性など相手にならないのだろう。
「下りなさい」
ライラの好戦的な声が響く。しかし上空の魔性は何かを待っているのか、動こうとしなかった。
「あたくしは下りて来なさいと命じたのよ」
言い直したライラの語尾に重なる形で大地が身を起こした。人間の指のように檻の形を作った公園の土が魔性へと伸び、同時に風が魔性を下へ押し付ける。抗う魔性の足元に、白い炎が生み出された。
「ちょっと! 邪魔しないで」
「お手伝いをしてさしあげただけですよ」
彼女が操った地と風に加え、リオネルの炎が魔性を襲う。雷を操った魔性に勝ち目はなかった。身体を松明として燃やされる魔性の唇が、何かを呼ぶ。
直後――大きな魔力が出現した。
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