第28話 迷惑すぎる来客(4)

 ドン!


 大きな音に空を見上げる。花火が広がる空は、すでに暮れて濃紺色に染まっていた。その深い色を引き裂くように、鮮やかな花火が広がる。


「綺麗だ」


「そうね」


 女性達の感嘆の声に、しかしジルは表情を厳しくした。懸念材料があるのか、夜空の暗い部分を睨みつけている。


「ジル?」


「……魔性だ」


 呟かれた不吉な単語に、ルリアージェも目を凝らす。花火の明るさに隠れるように、夜空に濃緑の衣を纏った人影が見えた。肌は白いのか、顔や手首が浮かび上がっている。長い髪は赤だろうか、腰まで届く髪をそのまま揺らしていた。


「あら、本当にだわ」


 ライラが肯定したことで、ルリアージェも気付いた。彼らはとんでもない魔力の持ち主だ。実力がすべての魔族において、最高級の実力者達だった。その彼らが「魔物」ではなく「魔性」と表現したのなら、上空に立つ魔性はかなりの実力者だろう。


 少なくとも、先日襲ってきた人型をかろうじて保つ程度の魔物ではない。膨大な魔力をもつ上級魔性である可能性が高かった。


 人の世界に魔性は興味を持たない。人の法律に従う気もない。魔物ならば人の命を奪ったり、魔力目当てに己より弱い者を襲うことはあるが……上級魔性にとって他者の魔力を当てにするなど屈辱でしかなかった。そのため、戦って勝っても相手を吸収しないのが常だ。


 この国に興味を示した可能性は低い。同じ理由でリシュアも除外されるだろう。彼は上級魔性でありながら、ずっと人族の国王を務めてきた。長期間、居場所がはっきりしていたのだから、今更襲う必然がない。いつでも仕掛けることはできたのだ。


 このタイミングで魔性が訪れる原因と思われる2人は、ルリアージェを見つめてから苦笑いを浮かべる。大地の魔女と死神、どちらも二つ名を持つ魔性だった。彼らがこの国を訪れてすぐに魔性が現れたのなら、魔性の目的はジルかライラだ。


「ちょっと片付けてくるか」


「そうね、見下みおろされるのは嫌いだわ」


 戦う気の使い魔たちにルリアージェは目元を手で覆って、大きな溜め息を吐いた。俯いた拍子に髪飾りが揺れて、銀の髪がさらりと顔を隠す。白いうなじを露に、美女は深呼吸して顔を上げた。


「なぜ…戦う前提なのだ」


「え? だって邪魔だろ」


「排除しないと、花火鑑賞の邪魔ですもの」


 どちらも「邪魔」という単語で魔物を指し示す。周囲への気遣いも、魔性の話を聞いてから動くという考えも存在しなかった。単に目障りだから叩き落す――ハエや羽虫のような扱いだ。


「話を聞いてから……っ」

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