第23話 魔の森のお茶会(9)

 ライラの声に重なって、落雷の音が森を引き裂いた。大きな音に肩が震えるが、見回した周囲に焦げはなく、炎も上がっていない。ジルを中心に小さな魔法陣が足元に展開した。その魔法陣が雷を帯びて、小さく脈打っている。


「雷はオレも得意だぞ」


 お返しとばかり、ジルが魔法陣を動かした。足元から目の前に移動した魔法陣から、複数の稲妻が走る。目を焼く鋭い光が現れた魔物を次々と撃墜した。


 魔性や魔物はなぜか上空から敵を見下ろしたがる傾向が強い。前に森で突然襲ってきた魔性もそうだったが、上にいるほど偉いと勘違いしているようだ。逆にライラやジルのように実力が異常に高い魔性は、特に上に立つことを重視しなかった。


 しかし、彼らのプライドは実力以上に高い。


「見下ろされるのは好きじゃない」


「失礼よね」


 2人の言葉を裏付けるように、無造作に雷や木々の蔓に叩き落された魔物が地に転がった。黒い槍で肩を縫い付けられた魔物を囮にした魔物達は、地に触れるなり大きな手の形をした土に拘束される。


「……雷を使うなら、風の魔王ラーゼンの手下かしら」


「最初は岩だったぞ」


「でも、大地はあたくしの領域だもの。風の力で岩を浮かせて叩き付けたのなら、やっぱり風じゃない?」


 ライラの疑問に、ジルが「それもそうか」と呟く。


「貴様らが、あのお方の名を口にするなど!」


「分をわきまえろ!!」


 大地に拘束された魔物の声に、ルリアージェは「どっちもどっちだ」と眉をひそめた。上位の魔性にケンカを売る行為は、彼らの言う『分を弁えない』行為そのものだ。


「うるさい、人間ごときが……っ」


 最後まで言い切る前に、ジルが左手に大きな鎌を呼び出した。解放した武器は名を喚ぶ必要すらなく、ジルの意思に従って顕現する。左手のひらを引き裂いたアズライルの黒く禍々しい姿は、死神の二つ名に相応しかった。


 振り翳した鎌の重さで、叫んだ魔物の首を切り落とす。転がった首は驚愕の色を浮かべたまま、崩れて灰になった。残された身体は死を理解していないのか、手足が動いている。


「虫けらの分際で、我が主を愚弄するか」


 ジルの鎌は残された身体を引き裂いて灰にしていく。残った4人の魔物は青ざめて口を噤んだ。


 魔物や魔性は殺されても復活する術がある。核が残っていれば、殺されて散った魔力を集めて元の姿を取り戻すことが叶うのだ。だがジルと鎌のアズライルが与える死は仮初かりそめではなかった。灰になった魔力は回収できず、また核も残らない証拠なのだ。

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