第22話 知らずに増える配下たち(5)
ガシャ!
大きな音に最初に反応したのはジルだった。上を見上げて眉を顰める。ぱらぱらと落ちてきたステンドグラスの天井を、手を掲げて張った結界で防いだ。
「ルリアージェ、こちらへ」
「ちょっと、結界くらい張らなかったの?」
ライラが抗議しながら、自分の上に結界を張る。ジルは自分とルリアージェの上にだけ結界を展開したらしい。足元に浮かんだ魔法陣が淡い光を発した。
緑色の光を放つライラの結界は、仕組みが違うのか。落下してくる欠片を吸収して消していく。弾くタイプのリオネルやジル達と、結界すら張らないレンが上に目を向けた。
素直にジルの手が腰に回るのを許せば、暖かい風に包まれる。一瞬で着替えさせられた衣装は、濃紺のスマートでシンプルなドレスだった。艶のある生地は絹で、滑々した独特の触り心地にルリアージェは溜め息を吐く。
「ジル、着替える必要が?」
「前のドレスはオレが贈ったのじゃないし、さっきお茶を零して汚れただろ?」
悪びれもせず緊迫感もないジルは、視線を天井からルリアージェに移す。足元から頭の先までじっくり眺めて、うーんと唸った。何か気に食わないらしい。
「口紅はこっちのがいい」
指先が触れた唇に、別色のルージュを乗せた。鏡がないので確認できないが、ライラは「そうね」と同意した。敵襲かも知れない場面で、化粧直しなんてあまりにも緊張感がない。
「肌も髪も色が薄いから、濃い色のドレスが似合うんだ。ピンクなんて印象がぼけちまう」
銀髪を撫でるついでに髪飾りを変えたようだ。着せ替え人形よろしく諦め顔のルリアージェだが、リオネルは「お似合いです」と無神経だが優しい言葉をかける。
「……お前ら緊張感ないけど、上で待ってる奴どうする?」
レンが呆れた様子で指差す先、砕けたステンドグラスの穴の内側に魔性が浮いていた。穴から入り込んだのは間違いなく、城の広間の天井を壊したのは彼らだ。ジルは興味なさそうに、ふんと鼻を鳴らした。
「どっちがいく?」
「片付けても構わなければ、私が」
リオネルが笑顔で一礼する。
「あたくしはジルの配下ではなくてよ!」
ジルの問いかけに憤慨するライラだが、上から落ちてきた新たな破片にキッと侵入者を睨む。
「破片を落とすなんて、あたくしのリアがケガをしたらどうするのよ!!」
八つ当たり気味の発言の直後、ライラの足元に新たな魔法陣が浮かび上がる。緑の光は彼女の魔力に反応しているのか、色を濃くして周囲を照らした。薄い色のときは癒しの緑だが、色を濃くすると禍々しい印象に変わる。
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