第21話 歴史とは捏造された小説で(6)
レンがジルを指し示した。長い黒髪を揺らしてジルが身を起こした。寄りかかっていた椅子の背もたれを髪が滑っていく。
「火、水、風、土の4大精霊が存在するのに、どうして魔王が3人なのか。それは5000年前に魔王が1人失われたからだ」
ジルは溜め息混じりに呟いた。感情の消えた紫藍の瞳がルリアージェを捉える。口角を持ち上げて作った笑みは、自嘲の色を浮かべ引きつっていた。
「オレは生まれない筈の『禁忌』――神族と魔王の混血だ」
「なぜ……生まれないって」
聞いた単語が上滑りする。魔族と神族の間に子供は生まれないにも関わらず、目の前に存在していた。こんな話は知らない。人族が伝え切れなかった真実を一度に浴びて、ルリアージェは混乱していた。
紫水晶の瞳をまっすぐに見つめ返し、「なぜ」と何度も繰り返す。
「襲ったのか、合意だったのか。当事者が何も言い残さなかったから知らないが、オレが生まれることで神族は混乱した。腹の中にいる頃から殺そうとしたって聞いたが、母は身を隠してオレを生んだらしい。人づてに聞いたんではっきりしないが」
他人事のように話したジルが一息つく。そこで紅茶のカップを戻したリオネルが、初めて話に参加した。
「その辺は私の方が詳しいでしょうね。ジル様を宿した母君を匿ったのは、我が父です。ジル様の父上である魔王様の配下でした。主の子供を敵から護る、普通の魔族ならば考えられない行動ですが……
「翼が黒かった所為でえらく追い回されたな」
懐かしむような響きで、ジルが苦笑する。リオネルも同じように苦笑して目を伏せた。
「ジル様は成長が遅く、魔性のように1年ほどで成体になりませんでした。そのため、ずっと私がお傍におりました」
神族特有のゆったりした時の流れにより、ジルの成長は時間がかかった。助けたリオネルは、その頃には忠誠を誓っていたようだ。昔話を懐かしむような2人の声に、レンは焼き菓子へ手を伸ばして頬張る。
「成長してみれば、神族最強の霊力の持ち主だったわけだ。変化を嫌う神族にしてみれば、ジルは異物であり同族じゃなかったんだろう。ま、おれにすりゃくだらない言いがかりだが」
レンは菓子を飲み込んで肩をすくめる。自分も魔性の枠からはじき出された傍観者だったため、ジルの境遇は共感しやすかった。何度かジルを助けたことがあるのも、それが原因だった。
「アティン帝国皇帝は、神族を滅ぼした。その報いとして、生き残りであるジルが彼らを滅ぼしたのが真相だ」
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