第18話 幻妖の森の迷子たち(6)
「お疲れさん」
そんな軽い挨拶で飛び込んだ主に、リオネルは頭を抱えて呻く。なんだろう、この自由すぎる存在は――身勝手に磨きがかかっている。自由に行動した結果封じられたくせに、まったく懲りていないのは何故だろう。
水の魔王の配下を片付けて移動した先で、今度は風の魔王の眷属に攻撃された。どうやらレンが
「今、忙しいんです」
言下に切り捨てて、目の前に炎の膜を展開した。自身は問題ないが、ジルにしがみ付いている美女は人間だと聞いている。わずかに風の刃が掠めても、真っ二つになりそうだ。
人間の脆さをよく知るが故に、咄嗟に結界代わりの炎を盾として作り出した。白い炎はすべての風刃を防いで揺らぎもしない。
「キレイだな」
「え? オレのがキレイな顔してない?」
防御に回す魔力が惜しいほどの接戦ではない。圧倒的に有利な状況だが、それでも盾を用いて背後を守りながら戦うのは面倒だった。部下の戦いを邪魔しておいて、何をほざいているのか。これでも主なのだから、彼を仰いだ過去の自分を呪いたくなる。
しかも、ジルの発言はかなり失礼だ。戦う部下に対して顔の良し悪しを口にするなんて……まあ、誰が見ても即答でジルの顔の良さは納得する案件だから、そこに異存はなかった。リオネルも上級魔性として整った顔を自負するが、能力相応であり、自惚れてジルより上だと勘違いする余地はない。
「顔じゃないぞ、炎だ」
白い炎は美しいと笑う美女に悪意はなく、悪い顔をしているジルを睨みつけた。
「なぜこちらに転移したのです?」
迷惑です。すごく迷惑です。全力で迷惑を強調しても、ジルはどこ吹く風といった態度で笑っていた。反省するような可愛い性格もしていない。
「無視するな!!」
敵の風刃が激しくなる。叩きつける風の勢いに、白炎もゆらゆら揺れた。魔力を少しばかり増やして炎を維持すると、リオネルは一気に押し切るため足を踏み出す。
「では終わりにしましょうか」
足元に地面はない。空中を透明な床を歩くように進み、近づいた距離の分だけ敵が押されて下がった。左手を掲げて炎を支え、右手を一振りして剣を呼び出す。1000年前の戦いでも使用した武器は、新品の輝きを放っていた。
白金から鍛えた細身の剣はレイピアのように刺して使う武器だ。炎の盾の間を縫って差し出す剣は、長さにおいて敵に届くことはなかった。だが、纏った魔力が敵の身体を鋭く貫く。
「……っ」
額を貫き、返す手で心臓を貫く。隣の魔性の右手と首を貫いて、ゆっくりとおろされた。見えたのはそこまでだが、実際には速すぎて目で追えなかっただけ。複数の場所から血を流した魔性が砂となって、砕けて散った。
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