第17話 歪んだ悪意(6)
――戻す?
「戻す、とは?」
うーんと唇を尖らせ、少し考える素振りを見せるジルは言葉を選んで説明を始める。
「言葉通りなんだけど、元に戻すんだ。この街や王宮の姿をね。イメージとしては巻き戻す形が近いのかな。元の姿を知っていれば戻せるよ」
「……時間を戻すのか?」
驚愕に声が掠れる。ルリアージェが知る魔術の中に、そんな高等技術は存在しなかった。存在したとしても扱えないだろう。人間の魔力で展開できる魔法陣では、破壊された地区を覆うことは不可能だった。
膨大な魔力と緻密な計算、複雑な魔法陣、正確な魔術の知識が求められる高等魔術だろう。人の中でルリアージェの魔力量は上位だが、きっとすべての魔力を注いでも魔法陣を描ききるまで足りない。
緊張に乾いた喉を、ごくりと鳴らして唾を飲む。肩に手を置いたままのジルを見上げ、紫の瞳を覗き込んだ。
「時間は
最初にしっかり釘を刺しておく。
時間を戻せれば、生き物が生きていた時刻まで
物の記憶は物体に刻まれていて、不変だ。壊されても壊された記憶が増えるだけで、壊れる前の姿の記憶が壊されるわけじゃない。だから物の記憶を辿ることで、元の姿を呼び起こすことが出来た。
しかし生物は違う。生き物の記憶は揺ぎ続ける。物の記憶と違い、不安定に変化するのが常だった。記憶を己で改ざんする者がいるし、思い込みで書き換えることも可能だ。そういう意味で、生物の記憶を辿って戻す魔術は、物の記憶とまったく別物だった。
だから
死人は甦らないといわれ、ルリアージェは残念そうに唇を噛んだ。それでも街が元に戻り、王宮が戻るなら……生き残った王族の元で国を再建できる。
帝国アティンを滅ぼした大災厄が、再びアスターレン国を滅ぼさずに済むのだ。上目遣いに見つめる先で、紫の瞳を細めたジルが答えを待っていた。
正確な理由は不明だが、封印から解放したルリアージェに対して、ジルは好意的だ。ライオット王子への攻撃も、ルリアージェが頼んだらやめてくれた。きっと今回も協力してくれるだろう。
期待を込めて願いを口にする。
「それでも、元の街に戻せるなら…」
「頼むって? じゃあ、オレが望むものと引き換えにしようか」
今まで見せたことがなかった、捕食者の顔で――ジルは嗤った。
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