第17話 歪んだ悪意(2)
さすがに文句を口にするが、ジルはそれ以上咎めようとしない。自分に甘い彼の性質を理解しているルリアージェは、手の中の黒い羽根を弄りながら「痛いのか?」と酷い質問を寄越した。
「痛いさ、ルリアージェだって耳千切られたり、大量に髪を引き抜かれたら痛いだろう」
たとえが大げさだと笑うルリアージェだが、実際痛覚が鈍い魔性のジルであってもかなり痛いのだ。思わず声が出るくらいには痛かった。抜かれた場所をさすって確認しながら、ジルは話を誘導し始める。
「次は北へ向かう? それとも西のシュリ? もう少しすると、サークラレラで大きなお祭りがあるらしいぞ」
「……」
眉を顰めたルリアージェが無言で見つめてくる。
「どうした?」
「……アスターレンはどうなった?」
記憶を戻すついでに、ここ2日分を消してもらえばよかった。
「さあ、知らないな」
「嘘だ」
断言されて観念する。
「嘘じゃない。オレがここに転移した後のことは知らないってだけ」
魔性は基本的に嘘を吐かない。人より話術が巧みで、真実を織り交ぜながら相手を誘導して話を逸らすことが得意だった。嘘を吐く行為は、己のうちに傷を作り出す。その傷は嘘がバレるまで疼くため、彼ら魔性は嘘を使わないのだ。
子供が親に隠し事をして罪悪感が疼くのに似た状況だが、普段痛みをほぼ感じない魔性にとって、僅かでも痛みを感じる嘘は鬼門に近かった。
「アスターレンの王宮に戻るぞ」
「なぜ?」
まったく悪気なく、素直に聞き返すジルに驚いた。街や王宮を破壊しながら戦い、人々を傷つけ殺し、国の中枢を揺るがしながら、ジルは何も悪いと感じていない。罪悪感や後ろめたさも一切ない。ただ、純粋にルリアージェの「戻る」という発言の理由を聞き返した。
「まだ助かる人もいるだろう。私の魔術が助けになる」
少しでも助けられる人を助けたい。死ななくて済む人がいるなら、魔力が尽きるまで魔術を行使するつもりだった。ましてや原因は天災ではなく、人災なのだ。
魔性であり『帝国滅亡の大災厄』として封じられたジルを解放したルリアージェは、己にその罪があると知っている。ジルがいなければ、あの魔性達はアスターレンを襲わなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます