第16話 復活(3)

 本当かと問う言葉は出ない。主であるジルの言葉を疑う必要はないし、彼が言うなら事実なのだから。


「ならば、私の主でもあるお方ですね」


「ああ、そうなるのか」


 今気付いたと頷くジルへ、苦笑いしたリオネルが疑問を口にした。


「眠り続けるお嬢様はさておき、私を呼び戻した理由をお伺いしてもよろしいですか?」


 紫の瞳をすがめて、意味ありげに笑う。


「レンを追え。捕まえなくていいが、探れ」


「承りました」


 主人であるジルににっこり笑い、リオネルが一礼する。そのまま足元へ沈むように姿を消した。彼の能力は上級魔性の中でも特別だ。魔王の側近相手でも引けを取らない実力の持ち主だった。


「さて……リアの方だが」


 どうしたものか。


 記憶を戻す術など使った経験がない。精神を操る魔術は禁じられており、世に残されてこなかった。だが禁止された術ならば、傍観者はっているだろう。


 やっぱりレンに戻るのだ。世界を傍観し記録するだけ――そう定められた彼らは、世界のバランスを取る義務があった。そのための知識と記録なのだ。


 もし失われた秘術だと仮定するなら、同じくうしなわれた神族が関わっている可能性はないか?


 思いつきだが、確認してみる必要はあるだろう。もともと治癒を含め内面に作用する術を数多く扱っていた神族が滅びて消えた術であれば、神族の翼を受け継ぐジルなら扱える筈だった。


 

 昔からの相棒を呼び出すのに、このアスターレン王宮は相応しくないだろう。見回した風景に苦笑いし、自分が原因であると忘れたように肩をすくめた。


 脳裏に浮かんだのは、かつて神族が治めていた都があった場所。今はひろい草原になっている。転移先を特定し、ジルはあっさり魔法陣を描いた。中心から螺旋を描く形で大きく広がった魔法陣の中心で、ぽんと最後の合図に踵を鳴らす。





 1000年前は美しい白亜の城があった。城壁はなく、民は穏やかで戦うことを厭う存在で……人間との共存を望み、魔性や魔物と敵対せずに生きてきた。


 背に大きな白い翼をもち、精霊を友として操り、平和という微温湯ぬるまゆにつかる生活。まさに人間が崇める神にもっとも近い存在だった。


 彼らの築いた文明すべてが炎上したのは――忌まわしい一人の人間が原因だ。


 思い出した記憶に眉を顰める。それでも感傷を切り捨ててこの場所を選んだのは、ここがもっとも霊力による結界が強く、魔力を相殺するのにけた土地だからだ。

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