第10話 彼の事情(2)
最高の気分だった。
魔法を得意とする上級魔性ラブレアスは、檻に施された魔法陣を掻い潜って手を出す実力はない。
目の前の檻はジルを捕らえると同時に、外敵から守る盾だった。ラブレアスは手を出せないが、当然、女王ヴィレイシェが彼を閉じ込めるだけで済ます筈はない。
実力者である女王を無視し、常に軽んじてきた男は容易に解放されないだろう。傷つけられ、這い蹲って女王に懇願するまで囚われの身となる。
彼女はそういった嗜虐的な趣味を持つ一面があった。きっとジルに対しても存分に発揮される。
彼の未来を考えれば、自然と口元が笑みに歪んだ。
「おまえが復活したのは驚いたが、これならば我が君の害になるまい」
「我が君ねえ……まだ『出られない』くせに、魔王を名乗るとは笑わせる」
売り言葉に買い言葉、互いの言い争いのレベルが低いのは承知している。だが魔性は本来子供と同じで、感情が幼い生き物だった。
生まれながらに膨大な魔力と魔法を操る彼らにとって、己が望むままに振舞うことは自然なのだ。
魔物は理性がない動物と変わらず本能で行動するが、魔性は人型を取り人と同じように思考する。だからこそ、より苦しめて、より哀しませて嘆かせる方法を模索する傾向があった。
そのため動物や魔物を殺すより、人間を殺すことを好む。
そして人間には持ち得ない魔力を操る彼らの願いは、ほぼ叶ってしまう。そのため大人になり我慢する必要もなければ、相手を気遣って思いやる経験もなかった。
どこまでも子供のまま、残酷に無邪気に他者を傷つける存在なのだ。そんな彼らが膝を折るとしたら、自分より実力があり魅せられた存在――魔王である。
複数の実力者を示す魔王という称号を勝手に自称することは出来ない。相応しくない実力の持ち主が名乗れば、他の魔性に滅ぼされるからだ。
それ故に、ヴィレイシェは魔女王を名乗れないのだから。
「我が君を愚弄するか!」
「愚弄される程度の実力しかねえだろ」
怒りに任せて氷の刃を手に纏わせた男が、それを突き立てる。檻は魔力を防ぐもの、魔力で作り出したとはいえ、氷は物理的な力を行使できる武器だった。
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