第132話 消化依頼と出立

 良心的な値段で旅の準備を終えた私たちは、装備を整えて、やって来る夜を待つ……前に、冒険者ギルドによる。

 デリットさんの登録を済ませ、ついでにクリアできる依頼があればやってしまいたいと思ったのだ。


「って言っても、私だけじゃあ『商人の国』の文字が読めないのだけれどもね。」


 私は、雰囲気だけで依頼の書かれた紙が貼られた木の板の前に立つ。文字の形的には、アラビアとかそのあたりだと思う。英語っぽい字面ではない。どちらにしろ、まともに言語を理解できないのだが。


 だが、文字は読めなくとも絵は見れる。あ、ゴリラの討伐依頼あるじゃん。素材を持ってきておけばよかった。持てるだけの余裕はなかったけれどもね。


 ジエチル村の依頼の大半は、畑の害になる魔物の討伐や手伝い、森の素材採取だ。勇者の国の王都には、貴族かららしき依頼もあったが、ここにはなさそうだ。まあ、こんな村までわざわざ貴族がやってこないのだろう。


「シロさん、登録終わりました……って、何を見ているのですか?」

「あ、デリットさん。持っている素材で達成できる依頼があるかな、って思って。」

「そうですか……。あ、でしたら、こちらはどうですか? 『薬草採取』ですって。」


 デリットさんはそう言って、一枚の依頼書を木の板からはがす。ちらりとのぞき込んでみれば、だいぶ雑な草の絵と、私では読めない文字が羅列されていた。


「『薬草』……具体的に名前とか書いてある?」


 私の質問に、デリットさんは文字を指でたどりながら答える。


「とくには書いていませんが……期日が明後日までです。報酬は、大銅貨4枚からですね。」


 王都よりも高く買い取ってもらえることに一瞬だけ驚いたが、よく考えれば需要と供給が関わってくるのか。私たちが来た森に行くまでにも魔物が出るだろうし、ここいらで栽培するには大量の水が必要になって来る。

 がんばったら採取できるくらいの薬草なら、畑で貴重な水を使って栽培するよりも食糧の方を優先するか


「ありがとう。じゃ、提出してくる。」


 納得した私は、デリットさんに軽くお礼を言ってから、バックの中をあさる。

 森の中で回収していた癒し草の束は、20束ほどしかない。もう少しあったほうがいいだろうと判断した私は、バックの中をもう少しあさり、森の中で新しく発見した薬草を取り出す。


 朝顔の葉っぱのような形。実際、生え方も朝顔に似てつる植物だった。葉っぱに棘はなく、葉の裏にさらさらとした毛のようなものが生えている。

 これが、癒し草よりも効果のある薬草、治癒草だ。ただ食べるだけでもHPが20回復するらしい。まあ、苦くて食べれたものじゃあなかったけれども。青汁を何十倍も濃縮させたものを生のゴーヤに振りかけたような味がした。二度と食べない。


 治癒草の束は30束。合わせて50束なら、十分買い取ってもらえるだろう。王都でも30束からだったし。

 状態も、ちゃんと乾燥させたり、腐らないように手入れをしたりしたから劣化はしていない。

 私は、薬草の束と依頼表をもってカウンターに行く。


 状態がよかったらしく、大銅貨を6枚、つまり、小銀貨3枚にしてもらえた。うれしいね。

 まあ、シンは買い物の途中で畑に迷い込んだポイズンスコーピオンを殴り殺したとかで銀貨をもらっていたけれども。結局、適材適所ってやつだ。




 一時の休憩を終え、日も暮れたころ。私たちは、ジエチル村の門の前で村長に手を振る。


「じゃ、行くか。」

「うん。__ありがとうございました、ご飯、すごくおいしかったです。」


 私の声に、村長は、笑顔で言う。


「こちらこそ、サンドサーペントを倒してもらえて本当にありがたかった。今度来るときは、ミルワームも食べるといい。あれはいい酒のあてになる。」

「……ああ、考えておこう。」


 シンは苦笑いを浮かべ、答える。

 言葉が分からないデリットさんは、やさしい笑顔を浮かべてゆったりと手をふる。


 こうして、私たちはジエチル村を出発した。

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