第108話 ヘイヘイ、前提崩れてない?

「え? 今の代の魔王って、人族に友好的なの?」

「ああ、そうだが……?」


 きょとんとした表情でこちらを見るシン。それに対して、私は凍り付いた表情を返すことしかできない。

__いやいやいやいや、なんで私たちこの世界に呼ばれたの?


 正直、私は魔王についてよくわかっていなかった。何せ、勇者の国の図書室には、敵対的な様子の魔王しか描かれていなかった。だから、私はてっきり魔王は私たちの、もとい、2-A の敵だと思っていた。


 だけれども、今の代の魔王は、友好的? 魔王を倒す必要、なくない? だったら、私たちを呼び出す意味なんて、なくない?

 頭がこんがらがってきた。私たちが呼び出されたい理由は、勇者の国の王様の私利私欲? だったら、何でクリストさんは神が呼んだって言ったの?


 ひきつった表情で考え込む私に、シンは心配そうに声をかける。


「おい、どうした? 何かあったのか、シロ?」

「ん、ああ、大丈夫。ちょっと、友達が心配になって。」

「お前、友達とかいたのか……」

「シンはいったい、私のことを何だと持っているのかな?」


 ずいぶん失礼なことを言ってくれたシンに、私は顔を上げて言い返す。


 あかねちゃん、大丈夫かな?

 いや、あかねちゃんはしっかりしているから大丈夫だろう。私だって生活ができているのだから。だけれども、もし、国と国のいざこざに、もしくは、ほかの何か、強い権力を持った何かに振り回されていたとしたら……?


「うっわ、王都に戻りたくなってきた……」


 頭を抱え、私はつぶやく。

 今から考えれば、日本に帰るために勇者の国から外に出るという選択肢が本当に正しかったのかわからない。だけれども、せめて、城から出る前に、あかねちゃんに会ってからほかの所に行けばよかった。

 でもなぁ、遺書書いちゃったし、死体も残っていたし……会うの気まずいよな……。


 ひどく悩む私に、シンはぶっきらぼうに言う。


「……俺はお前の護衛だ。場所の変更があるなら、さっさと言え。」

「ありがとう……。」


 気を使ってくれているらしいシンに、私は力なく返事をする。

 どうすべきか。私には、いま、ほぼ無限と言って差し支えのない選択肢と、それらを阻む壁が存在する。


 壁の一つは、私が根無し草の冒険者であること。社会的信用の「し」の字もない職業の、しかも、子供だ。王都に戻るという選択をとったところで、あかねちゃんがいるはずの王城に入ることは叶わない。

 二つ目は、私の死体があったこと。多分、というか、十中八九、2-Aでの私の認識は、『死んだ人』であるはずだ。見た目もずいぶん変わってしまった以上、ひょっこり顔を出したところで本人だとは思われないだろう。

 三つ目は、さっきもらった、あの不名誉称号。この世界に来た理由の中に、神が関係している可能性が高いのに、あの称号のせいで私は教会に近づけない可能性が高い。

 他にもいろいろあるが、私の欠点は『(存在に)信用がない』の一言に尽きる。冒険者ギルドに所属していたためできると思っていた国境越えも、【神に逆らう者】の称号のせいでできるかどうか怪しくなってしまった。


 だけれども、それを上回る大量の選択肢が存在している。

 これから向かう場所一つとっても、王都、賢者の国、魔王の国、商人の国と様々だし、行うことだってあかねちゃんに会いに行ったり、教会に行って神様の話を聞いたり、魔王について調べたり、と一つに絞ることはほぼできない。


 私は、目を閉じて考える。


__私のしたいことは、何?


 最終目標はもちろん、A日本に帰ることだ。私一人で、ではない。全員で、だ。

 そのためには、ここから日本に帰る方法を探す必要がある。手掛かりは、私たちをこの世界に呼んだ(らしい)神様。


 思考を繰り返し、そして、私は目を開けた。

 目の前には、こちらを見つめるシン。

 私は、白い髪の毛をそっと撫で、口を開く。


「したいこと、決まった。とりあえず、まずは……」







 翌日。私とシンは、『神の試練』の流行っているアレドニア地方へと向かうことを決めた。


 私には、疫病にかかっている人々を救う手段がある。

 だったら、救うべきだ。命を。


「だれも、見捨てない。後悔したくないから。」


 宿屋の個室で、小さくつぶやきながら、私は練習をする。

 右手に持っているのは、「飛竜の心臓」ことフライドラゴンの心臓。そのほかに、さっき汲み上げたばかりの綺麗な井戸水や、薬草、店で購入した風邪薬をそばに集め、そして、唱える。


「【薬品生成】」


 MPを消費する感覚。どれだけ減ったかは文字化けのせいで読むことはできない。しかし、昨日散々作った中級万能薬よりも多くMPを使っていることがわかる。

 気持ちが悪い。吐き気がする。

 だが、成功した。できた。


 小さな小瓶の中に封じ込められた液体。私は、それを【薬品知識】で確認する。


[中級万能薬]

 かなりの種類の病気を治すことができる。

材料

 飛竜の心臓(MP強化済み) 綺麗な水 薬草 風邪薬


「できた……!」


 ワイバーンの心臓は、もう使ってしまった。そして、私にはワイバーンの心臓を代用するだけのMPをもっていない。

 だが、フライドラゴンの心臓なら、冒険者ギルドに在庫があった。


 昨日理解できたこと。薬師には、材料に幅を持たせることができる。材料を変えることで、味や効果が少しだけ変えることができる。


 だが。それだけではない。

 だって、やったじゃあないか。勇者の国のダンジョンで。

 ロキが魔物を追い払い、暇だったあの時。私は、ダンジョンに流れていた水を、【生成(薬品)】で綺麗にした。


 つまり、MP使使

 ニッと微笑みながら、私は小さな小瓶の中に封じ込められた液体を【薬品知識】で確認する。


[中級万能薬]

 かなりの種類の病気を治すことができる。

材料

 飛竜の心臓(強化済み) 綺麗な水 薬草 風邪薬


「できた……! 薬師って、MPさえあればチートなジョブだよ、本当に。」


 私は、フライドラゴンの血で右手を赤く染めながら、小さくつぶやきながら残りの小瓶を満たしにかかった。

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