第107話 相談しよう、そうしよう。
目が覚めたとき、すでに時刻は夕飯時となっていた。だけれども、お腹はすいていない。というよりかは、お腹がすいていると思えるような心の余裕がない。
今考えていることはただ一つ。
______まずい。とにかく、ヤバい。
焦りのあまり語彙力が爆散している。が、それくらいにはヤバイ。
パニックになりかけながらも、私は自分のステータスをチェックする。
名マエ______
ジュ族 ______ れべル ______
ジョぶ 薬師
hピー 2※#/______ mP ▽※0/______
キン力 2:& 知リョグ @40 ジュン発りョク ◇3¥ セいシン力 □^-
アヒリディ
生成(薬品)【10】→薬品生成【1】
薬物知識【9】 植物知識【5】 精神汚濁耐性【7】 MP軽減【7】 洗濯【5】 清掃【5】 料理【2】
称号
【赦された者】
【至高の薬師】
【神に逆らう者】
「うっわ、気持ち悪!」
めちゃくちゃに文字化けしたステータス。読み取ることのできないMPやHP。名前と種族は前から空白だったから問題ないとはいえ、レベルも見れなくなったのか……。
まともに読めるのは、称号欄とアビリティの内容くらい。なぜこうなったかは、割と簡単に予想できる。
「称号の、【神に逆らう者】のせいだよね……。」
頭を抱えて、ステータスを消す。何が問題って、多分、このステータス、人のものを見ることができるはずなのよね……。あかねちゃんに見せてもらったことがあるし、クリストさんは他人のステータスを公開する道具を持っていた。
だとしたら、他人のステータスを覗き見るアビリティがあってもおかしくはない。
この世界は、神様が割と信じられている。クリストさんはアリステラ教の偉い人だし。
そんな神様に逆らったらしい私は、一体、どんな目で見られる?
「まずくない?」
どうすべきか。とりあえず、シンと相談しよう。そうしよう。
「ってわけで、どうすればいいと思う?」
「厄介なことになりやがって……!」
再度部屋の扉をたたいた私に、シンは頭をかかえる。いやー、ごめんね?
「心当たりはあるっちゃあるけど、ちょっと考え込んだくらいでこんな称号を渡されるとは思わないじゃん。」
「何を考えた?」
あきれたような顔つきで、シンが私にたずねる。私は、正直に答えた。
「いや、神って何だろうな、って考えただけ。」
転移者だとは告げず、そこだけを言う。
私の出自を言おうかどうか迷うところだが、結局、シンと私のつながりは依頼主と冒険者のつながりでしかない。悪い人ではないにせよ、言うには何かあった時のリスクが高すぎる。というか、信じてもらえないだろう。
私の言葉を聞いたシンは、口と目を見開く。
そして、言う。
「……は? それだけか?」
「ん? それだけだけど?」
私の答えを聞いたシンが、けげんな顔をする。何か変なことを言ったかな?
私のその疑問に答えるように、シンはつぶやくように言う。
「それだけなら、受け取る称号は『不信者』だろ……?」
「不信者って?」
「……俺、お前のことを世間知らずだと思っていたが、訂正する。お前は、常識知らずだ。」
「ひでぇ!」
知らないものは仕方がないじゃないか。頭を掻いて、私はもう一度質問する。
「で、不審者って、どういう称号?」
そう聞くと、シンは答えてくれた。やさしいね。
「不審者じゃあねえ、不信者だ。……あー、不信者ってのは、【神を信じぬ者】って称号をもらったやつの俗称だ。神の存在を疑ったものに与えられる称号だな。墓泥棒だとか、教会に盗みを行った者にも与えられることがあるらしい。」
「へえ……。ああ、確かに、私は神の存在を疑ったわけだから、【神を信じぬ者】の称号をもらったほうが自然だね。」
「【神に逆らう者】ってのは……魔王だとか、魔王の側近だとか、後は神託をもらったのに何も行動しなかった奴だとか、そういう明確に神の意志や命令に逆らったやつに与えられる称号だな。」
魔王、ねえ?
聞き覚えのあるその名前に、声をあげそうになる。勇者の国の王様曰く、私たちがここに来た理由だ。
「はいはい、魔王って、何なの?」
右手を挙げてそう聞けば、シンは深々とため息をついて言う。
「お前なぁ……。いったい今まで、どうやって生きてきたんだよ。」
「まあ、いろいろあってね。」
まさか転移者だとは言えない私は、そっと言葉を濁して髪の毛に触れる。そういえば、私って髪の毛を染めれば普通に見えるのじゃないかな? 暇なときに材料を探してみよう。
私の様子を見たシンは、何かを想像したのか、気まずそうに目を逸らし、話題を変えるかのように説明する。
「魔王っていうのは、魔族の国の王様だよ。今は……あー、確か、『カイン』って名前だったかな。今代の魔王は人族に対して友好的だからな。戦争を仕掛けてくることはまずないだろう。先代は戦争一歩手前まで行ったからなぁ……。」
「ふーん……え?」
シンの言葉を聞いた私は、思わず目を見開いた。
今の代の魔王、友好的なの?
私たち、何のためにこの世界に呼ばれたの?
____________________________________
日差しもほとんど差し込まないほど深い森の奥。体液でどす黒く汚れた刀を布で拭い、急所だけに金属の仕込まれた革鎧をまとった茜は、小さくつぶやく。
「ふう……これで、目標討伐数達成ね……。」
「こっちも大丈夫だよ、おねーちゃん!」
いつもの白いワンピースではなく、強化魔法のかけられた麻布のズボンと丈夫な魔物の革でできた、軽くも丈夫なソフトレザーの鎧を装備したイナバは、白く長い耳をピコピコと揺らし、周囲を警戒している茜に明るく声をかける。
イナバの手には小さな杖が、背中には体の大きさに見合わないサイズのリュックサックを背負っている。
イナバのリュックを見た茜は、小さくため息をついて、イナバに聞く。
「リュックサック、体に合うサイズのほうがいいのじゃあないの? 動きにくそうよ。」
「いいの! おねーちゃんのおさがりだから!」
イナバはそう言うと、リュックサックのひもをぎゅっと握り締める。その様子を見た茜は、一言言おうと思ったが、やめた。
__貯金があるから、別に遠慮しなくてもいいのに……。
軽く目を伏せ、茜は体を伸ばす。
森の奥地ということもあり、かすかな木漏れ日を体に浴び、少しだけ疲れが取れる。
__暇なときに、自分たちでお弁当でも作って、森林浴でもしようかしら。宿のごはん、あまりおいしくないのよね……。
そんなことを考えながら、茜は地面の上を見る。道からそれたそこは、下草が生い茂り、固いブーツの上から茜の足をくすぐる。
だが、一面緑色ということではない。
赤。赤。赤。
オークの死体の白に交じり、土の上に広がる、血液。
「イナバ、防臭の魔法はあとどれくらい持つ?」
「うーん、戦闘にならなければ、あと二十分は大丈夫かな。」
イナバの返事を聞いた茜は、少しだけ考えた後、イナバに言う。
「討伐証明部位だけを切り取ってから、後はマジックバックに入れておきましょう。一体分だけ肉をもらって、宿屋のおばさんに渡したほうがいいわね。」
「わかったよ、おねーちゃん! 足音が聞こえたら声をかけるね!」
イナバは耳をピンと立て、周囲を警戒しながら返事をする。それを確認した茜は、腰に差した脇差……ではなく、両刃のナイフを取り出し、オークの死体のそばに歩み寄る。
__オークの討伐証明部位は、右耳だったはず。
十体のオークの死体を前に、茜は作業を始めた。
「一度に依頼を達成できる量のオークが来たのはいいとして、片付けが大変なのよね……」
茜は小さくつぶやきながら、ナイフを赤に染めた。
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