第102話 騒動と治療薬

 お昼寝……いや、遅めの二度寝を楽しんでいた私は、扉を叩き壊さんばかりの勢いのノックで目を覚ました。何?


「はーい、いま目が覚めましたー。」


 フードをしっかりかぶりなおしてから、私はドアを開ける。廊下にいたのは、シンだった。


「あれ? どうしたの、ジャック。」

「どうしたもこうしたもねえよ! 村のやつらがお前を出せって!」


 目をこすりながらそう答えた私に、シンは焦ったような声色でそう答える。

 ……ワッツアップ?


 急いで身支度を整え、宿の外に出てみれば、そこには大量の人、人、人。私を見つけた彼らは、必死に声をかける。


「うちの子を助けて!」

「母さんが死にそうなんだ!」

「助けてくれ!」


「……これは?」

「俺が知るか! シロ、お前が何かしたのじゃあないのか?」


 いや、やったことって……そういえば、肉屋の娘に薬を渡したな。ひとまず、確認しなくては。


「聞きたいことがあります! 何がありました?」


 私が大声でそう聞けば、若いお姉さんが答えてくれた。


「ニックが、アンタからもたった薬で娘の病気が治ったって……!」

「……あー、なるほど? 私は医者ではありませんので、彼女が『神の試練』にかかっていたのかはわかりません。」


 私がそう答えても、人垣はそう簡単に消えはしない。あー、無責任なことはするものじゃあないな。中級万能薬はMPをかなり使って作るし、無料で配るというのは少々困る。ワイバーンの心臓だって使っているわけだし。


「ねえ、ジャックさん。中級万能薬の相場っていくらくらい?」


 私がそう聞くと、ジャックさんは少しだけ考えた後に答える。


「銀貨一枚から、銀貨三枚といったところだな。」

「うーん、じゃあ、一本小銀貨一枚でいいか。作った分、全部売り払うね。」


 今回の件は、肉屋のおじさんに口止めをしなかった私が悪い。聞くかどうかもわからないような薬にお金を支払わせるのもどうかと思うが、だからと言ってタダで渡せるような材料を使っているわけではない。


 一度宿に戻ってから、私は移動時に作った中級万能薬を引っ張り出し、また外に出る。そして、宣言する。


「『神の試練』に効くかどうかはわかりません! でも、中級万能薬を売ります! 一本当たり小銀貨一枚です! 本数が少ないので、買い占めと転売はしないでください!」




 結果から言おう。私の作った中級万能薬は、見事『神の試練』を治すことができた。医者に『神の試練』にかかった、と宣告された村人が治ったという報告から、それは確かなことだ。


 で、私はどうなったか。端的に言おう。頭痛がつらい。

 道中で作った分だけでは、中級万能薬の在庫は足りなかったのだ。だから、販売方法を後半で変えた。MPポーションを譲ってくれた人には、大銅貨一枚で譲ることにしたのだ。


 MPポーションを飲んでは中級万能薬をつくり、MPポーションを飲んでは万能薬をつくり……。それを三時間は繰り返した。もうしばらく、MPポーションは飲みたくない。飲んだら多分吐く。


 その結果、購入希望者全員に中級ポーションがいきわたった。ヴィレッチ村で手に入れたワイバーンの心臓は、全部なくなってしまったが。


「あ”、あ”だまだい。」


 宿屋の食堂でレンジの実のしぼり汁をちびちびと飲みながら、机に突っ伏して私はつぶやく。かなり感謝した様子の宿屋のお姉さんが、ただでおごってくれたのだ。ありがとう。


 ぐったりしている私に、シンは面倒くさそうに声をかける。


「一泊してから次の町へ行く予定だが……つらいようだったら、変更するか?」

「い”や、だいじょうぶ……。寝れば治る……。でぎるだげ早く商人の国にいぎたい……」

「わかった。とりあえず、俺は部屋に戻る。」


 シンはそう言って部屋に戻ろうとする。だが、私はそれをシンの手をつかむことで止める。うぇ、激しい動きをしたから、頭痛い。

 私に手をつかまれたシンは、けげんな顔でこちらをのぞき込む。

 そんなシンに、私は小さな声で言う。


「後で部屋に行く。いま、さすがに動けない。」

「……あ?」


 シンは、一瞬だけ意味が分からないという表情をしてから、思い当たることがあったのか、黙ってうなづいた。そして、片手をひらひらと振って、部屋に戻っていった。


 いったい、なんでこんなに私は運が悪いのだ?

 騒動の予感を噛みしめながら、私は頭痛の波を乗り越えるため、必死にこらえた。

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