第101話 再出発……できないな……

 冒険者ギルドで依頼表をつくってから、私とシンは宿屋へ移動した。いくら病が流行っているとはいえ、屋根と壁のあるところで休める機会を逃したくない。

 冒険者ギルドでおすすめされた宿、『木漏れ日亭』は、村でも比較的大きな通りに面する二階建ての木造建築で、色濃く重厚な扉にかかった葉っぱのモチーフが特徴的だった。


 扉を押し開け、私とシンは宿の部屋を二部屋とる。相部屋はさすがにしない。お金にも余裕があるし。


「明日の朝、朝ご飯を食べてからここを出よう。」

「わかった。用意しておく。」


 そうやって別れたはいいが、まだ時刻は昼前。これからの旅のために食料品の買い込みをしたいところだ。そう考えた私は、財布代わりの布袋と各種薬の入った背負い袋をつかみ、宿の外に出た。


 外は相変わらず人がいない。食料品の売っていそうな店も、ほとんどは閉まっている。私は、こんな中でも開店していた肉屋に立ちより、死んだ顔でカウンターに立っていた白髪交じりの青色の髪のおじさんに声をかける。


「あー、すいません、干し肉を買いたいのですが。」

「ああ……お客さんか。干し肉なら一袋で銅貨二枚だよ……。」


 くたびれたようすのおじさんはそう返事して、干し肉の入った袋を見せる。見たところ、一袋で6食分といったところだろうか。干し野菜も買いたいところだ。あまりたくさんは買わなくてもいいだろう。


「二袋ください。大銅貨一枚で。」

「ほら、おつりだ。__お客さん、この辺に来たのは最近かい?」


 銅貨一枚を私に返し、おじさんは私に声をかけてくる。少しだけ調子を取り戻したのだろうか。私は返事をする。


「ええ、まあ。王都から来ました。」

「じゃあ、『神の試練』を治す方法を知っていたり……!」

「いいえ。流行り病のことを知ったのも、ついさっきです。」

「ああ、そうか……。」


 希望を持った様子のおじさんは、私の返事を聞いて落ち込んだ。申し訳ない。短い青髪をかきなから、おじさんは私に言う。


「隣町の俺の友達が『神の試練』にかかったらしくてな……日に日にやつれていくあいつを見ていると辛いんだ。俺の娘も体調が悪いみたいだし、不安なんだよな……。」

「それは……怖いですね。私もこの町に数日滞在する予定でしたが、明日には出発する予定です。」

「そうかい。気を付けてくれ。」


 そんな会話をしていると、店の奥から五歳くらいの窮屈そうに布のマスクを着けている女の子がやってきた。おじさんよりも深みのある青色の髪の彼女は、小さくせき込みながら言う。


「お父さん、お水、こぼしちゃった。」

「ルル! お水は拭いてあげるから、ベッドに戻りなさい!」


 その少女を見た私は、思わず息をのんだ。

 ぱさぱさになった髪の毛。

 痩せて細くなった腕。

 血の気が引いて白い肌。

 ふらふらとした歩みは、今すぐにでも止まって倒れてしまいそうなほど頼りない。


 それを見た私は、気が付けば背負い袋の中をあさっていた。確か、ここにあったはず。あ、見つけた。袋の中から取り出したのは、安いガラス瓶の中に閉じ込めた青色の液体。『薬品知識』で確認してみれば、すぐにそれが見えた。


[中級万能薬]

 かなりの種類の病気を治すことができる。

材料

 飛竜の心臓 綺麗な水 薬草 風邪薬


「あの! これ、気休め程度にどうぞ。」


 呆然としているおじさんに中級万能薬を押し付け、私は肉屋を後にした。……それが、のちのち大騒動になるとは気が付かずに。



 買い物を終えた私は、宿屋に戻ってベッドに寝転がる。久々のふかふかなお布団だ。日はまだ高いし、何なら昼食すら食べていないが、もう疲れたのだ。

 町の様子が暗いというのは、精神に来る。数時間買い物をしただけだというのに、丸一日移動をした後のような疲れが体にのしかかる。


 とりあえず、昼寝をしよう。……いや、お昼ご飯前だから、朝寝かな? それって、ただの寝坊……?


 そんなくだらないことを考えながら、私はフードをかぶったままベッドの上で目をつぶった。


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