第100話 ロゼの村

 不安極まりない門番二人をスルーして、私とシンはロゼの村の中に入った。

 ロゼの村は、町というにはやや小規模であるが、村というには少々栄えていた。レンガ造りの建物が並び、店や建物、屋台も立ち並んでいる。普段なら、買い物客であふれ、にぎやかなのだろう。ああそう。普段なら。


 不自然なまでに静まり返った村には、門番以外に人っ子一人いない。時折、家から子供の「外に遊びに行きたい!」という癇癪と、必死になだめる母の声が聞こえてくるばかりだ。


「なにこれ、不穏。」

「……追加料金を支払ってくれたら、この奥の町を目的地にしてもいいぞ?」

「お安くなります?」

「適正料金で引き受ける。」

「ちょっと迷っている。」


 目的地に着いた私とシンは、村のことは置いておき、ひとまず冒険者ギルドを目指す。シンに今日までの護衛の代金を支払うためだ。

 冒険者ギルドの木製の扉を開ければ、中は騒がしい……ということはなく、席には空席が目立ち、机に座っている人も、どこかあきらめたような顔をしているという、気持ちが悪いほどに静まり返っていた。何? お葬式なの?


 形式的にカウンターに座った受付嬢は、明らかに気落ちした表情でカウンターの木目を数えている。いやいや、本当に大丈夫?


「すいません、依頼達成の報告をしたいのですが……」

「あっ、すいません! えっと、何の依頼でしょうか?」


 私が声をかければ、驚いたようすの受付嬢がこちらを見た。シンは受付嬢に言う。


「アモイからここまでの護衛依頼だ。依頼人はこの通り無事だ。」

「ああ、はい。かしこまりました。こちら、報酬の小金貨一枚です。」

「ああ、確かに。」


 小さな金色の金貨を受け取ったシンは、ポケットの中にそれをねじ込む。それを確認した私は、受付嬢に質問する。


「ずいぶん雰囲気が暗いですけれども、何かあったのですか?」

「ああ、そうですね……。隣の領地のアレドニアで疫病が流行っておりまして……。今までは大丈夫だったのですが、つい最近になってこの村でも発病者が出たのです。」

「……え? 魔法で何とかならなかったのですか?」

「光魔法が効かない病なのです。教会も必死に疫病の終息を図っているのですが……いまだに手掛かりは見つかっていません。」


 うっわ。私は思わず頭を抱えた。

 リンフォール王子に声をかけられたときの多くの命って、これか……。脳裏にちらちらとよぎるエリクサーの存在。私は思わず、フードをつかみ深く下した。罪悪感が心に黒く広がる。


「……病の名前は?」


 私のその変化に気が付いたのか、気が付かなかったからなのか、そう聞いたシンに、受付嬢は悲しげに答えた。


「教会の方々は『神の試練』と呼んでいます。アリステラ様が私たち人間に与える魔法では治らないため、神が私たちに試練を与えているのだと……。」

「……うわぁ……。その情報、公表されていますか?」

「ええ。アレドニア地方へ向かう旅人たちには、疫病の存在を教えています。シロ様は『商人の国』に向かう予定ですので、迂回路を選んだほうがいいかと。」

「ありがとうございました。早めに出発しようと思います。」


 受付嬢にお礼を言い、財布代わりの小袋をちらりと見ながら、私は考える。正直、ロゼの村で暫くお金稼ぎをして、次の護衛を探すつもりだった。情報収集もしたかったし。だが、病気となると、話は変わる。なにせ、命に係わるのだ。


 正直、『薬師』というジョブを持つ私がなにかできないか、とは考える。しかし、薬師のジョブは珍しいというだけで、いないわけではない。さらに言ってしまえば、万能性という点で『薬師』は『錬金術師』の完全下位互換だ。

 国が本腰を入れて何とかしようとしている状況で、(いくら異世界人とはいえ)私ごときができることはもうやりつくされているだろう。


 中級万能薬が『神の試練』に効くとは思えない。なぜなら、リンフォール王子がエリクサーをつくってほしいと私に依頼したのだ。上級以下の万能薬をつかっても『神の試練』が完治しなかったと考えるほうが自然だろう。

 そこまで考えたところで、私はシンに声をかける。


「とりあえず、シ……ジャックには、護衛の追加依頼を出してもいい? ここからできることはなさそうだし。」

「ああ、そうだな。」

「報酬は小金貨二枚。目的地は『商人の国』国境。それでどう?」

「移動中の朝飯と晩飯は頼む。」

「おっけー。」


 そんな生返事をして、私とシンは冒険者ギルドから出た。 


 

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