第99話 わかってるよ、移動なんてこんなものだ。

 ヴィレッチ村の村人たちが山から帰ってきたあと、道中で作っていた風邪薬と低級ポーションを適正価格で売り払ったお金と、ささやかな報酬、ついでに購入した食料品とやたら重いワイバーンの素材を荷物に増やして旅に戻った。皮がざらざらしていて痛い。


 ちなみに、ワイバーンの肉や内臓などの腐りやすい素材のほとんどはヴィレッチ村の人たちに二束三文で売り払った。あっても旅の邪魔だから仕方ないね。


 ただ、ワイバーンの心臓だけはもらった。薬品知識によると『中級万能薬』の材料になるらしい。道中、時間があるときに作ってみたけど、ひとつ作っただけで満タンだったMPが全部消し飛んだ。頭が痛いね!


 性能がこちら。


[中級万能薬]

 かなりの種類の病気を治すことができる。

材料

 飛竜の心臓 綺麗な水 薬草 風邪薬


 相変わらず説明が雑だ。なお、綺麗な水は井戸水でも大丈夫らしい。


 ただまあ、このお薬材料の原価のことを考えると、そこまで高く売り払えないのだよなぁ。この性能で銀貨1枚でしか売れないとか……。この世界、薬師に厳しすぎない? まあ、回復魔法とかいうものがあるから仕方ないけど。


 財布が少し潤ったので、よしとしておこう。


 それよりも、だ。



「………暇……………。」



 ここからロゼの村まで歩いて丸1日。もう少しといえばもう少しなのだが、それが遠い。


 何よりも、隣を歩いているシンがずっと考え込んでいるため、話しかけることすら出来ないのが辛い。今日が曇りで本当によかった。これで太陽が燦々と降り注いでいたら救いようがどこにもない。


 結局、日が落ちきる直前まで歩き、道中で一泊した。今日の晩御飯はどうするか……


 ちらっとシンの方を見たが、彼は夜営の準備をしていた。多分、料理をするつもりはないのだろう。


 ……これはまあ、仕方ないか。


「焚き火とかまどモドキはもうシンが作ってくれたし……とりあえず、ヴィレッチ村で買ったものを使って適当に作るか。」


 まずは、道の周囲を確認する。すると、何やらオレンジ色の実のついた木を見つけた。


「【植物知識】。あ、レンジの木ね。実は毒はなく甘くておいしい、と。ねえ、シン。この木から勝手に木の実ってとってもいいの?」

「大丈夫だ。」


 テントを組み立てていたシンは短くそう答えた。オーケー、デザートに2.3個持っていこう。砂糖は貴重品だからなぁ。そんなことを考えながら、木に実っていたオレンジというよりは赤色に近い色に熟したレンジの実を三つもぎ取る。

 そして、料理を始める。


 とりあえず、料理の才能のさの字もなくてもできる堅焼きパンのチーズのせと焚き火で炙った干し肉に、乾燥野菜と野草のスープ。デザートに、レンジの実。

 スープはそこそこ美味しくできた。薬草のほろ苦さはどうにも出来なかったけれども。お母さん、料理が上手だったんだな……。

 レンジの実はオレンジよりも香りが強く、噛みしめるたびに柑橘類独特のプチプチとした触感と、清涼感のある甘い香りが口の中に広がった。朝に食べたら、さわやかな気持ちになりそう。


 晩御飯のときも、シンは上の空でぼんやりとスープを飲み込み、レンジの実に噛みついていた。ただ、最低限の警戒は解いておらず、たまに周囲を見回したり、拳に巻いたままの包帯をなでたりしていた。


 何があったのだろう……?



 翌日。まぶしい朝日とともに出発した私とシンは、(本当に)何事もなくロゼの村の門まで来れたのだが……何やら、様子がおかしい。……おとといもこんな感じじゃあなかった?

 ロゼの村は頑丈そうな木の柵で周囲を囲まれており、柵の前には堀もある。これだったら魔物にも襲われないだろう。だが、門番の様子がおかしい。


 鎖帷子と穂先が鉄の槍を持ったが二人、門の左右に立っている。が、どこか、浮ついた、というよりも、何かを気にかけているといったような様子の二人組は、しきりに村の方をちらちらとみている。それを見たシンは、盛大に顔をしかめて頭をかかえた。


「おい、シロ。お前、不幸を呼び込むアビリティでも持っているのか?」

「失礼な。……持っていないとも言い切れないから嫌なんだよね。」


 そう答えた私に、シンは「は?」と言うが、無視だ無視。……いや、ほら、称号の『許された者』とか、地雷にしか感じられないし……。

 そんなことを考えていると、シンが私に向かって言う。


「あいつら、門番を本職にしているやつらじゃあないな。」

「えっ、そうなの?」

「……わかっていなかったのか?」


 あきれたような視線を私に向け、シンは言う。やめてよ、その馬鹿を見る目するの。私はちょっとここいらの常識を知らないだけなの。

 どう考えてもわからない私に、シンは答え合わせのようにつぶやく。


「まず、門番が門の内側を気にするのがおかしい。門番は外からくるものを警戒するのが仕事だ。次、鎧の着こなしがうまくできていない。肩の鎖帷子がよじれている。あれだと、もし戦闘になった場合、体に鎖が巻き付いて身動きが取れなくなる。」

「……そこまでわかる?」

「……わからないと、盗賊どもの村に迷い込んで死ぬぞ?」


 うっわ、怖いなそれ。


「っていうことは、ロゼの村、盗賊に支配された感じ?」

「いや、それだったら、もっと警戒が甘いか厳しいかのどちらかだ。あいつら二人は、単純に門番になれていないみたいだ。」


 なんだそれ。研修中ってこと?

 ……いや、そんなわけがないか。それだったら、どちらか片方がしっかりしているはずだ。


 私は、思わず頭を抱えて、シンに聞く。


「……ねえ、シンって、不幸を呼び込むアイテムでも持っているの?」

「お前……。」


 シンはあきれた顔でこちらをのぞき込んできた。

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