第93話 魔物と魔人、獣人と人間(1)

「【筋力強化】【攻撃力強化】【魔力撃】」


 ジャックさんの短い詠唱と鈍い破壊音。

 過剰とも思えるような強化の施された一撃により、この勝負は私たちの勝ちで幕を閉じた。


 ……うん、それだけだったらよかったのだけれども、ねえ。

 全くもってワイバーンスカーレットは余計なことをしてくれた。


「ヘイ、ジャックさん、どんとるっくみー!……あっ」

「何言ってんだ、シロ……?!おまっ、こっち見んなよ!!」


 戦闘が終了し、互いに力も緊張も抜けたその瞬間に、それは発覚した。


 そうだ、あれだ。具体的にはワイバーンスカーレットが逃げようフライアウェイとしたとき。あの時の風圧で、私たちのフードははがされたのだ。


 そう、私は今、


 そして、私とジャックさんと目がかち合った。


 戦闘中にもちらりと見えた金色の短髪。服の袖からちらりと見えていたように、褐色の肌に整った顔。つり目がちな瞳は髪の色よりも少しだけ濃い金色。


 そして、その額には、不透明な琥珀色の


 ロキのようにねじ曲がった羊のような角ではない。牡鹿のような目立つ大きなものでもない。似ているとするならば、日本にいたときに見た、地獄絵図の獄卒たち。


 驚きを隠せない私とジャックさん。


 はっとした私は、あわててフードをかぶり直し、髪と瞳を隠す。


 一瞬、案外カラフルな髪色や目の色をしている異世界だから隠す必要があるのかと思い悩んだ。が、脳裏をよぎるのは、『勇者の国』の王都の宿屋さん。


 あのときの反応を思い出す限り、よくある髪色、目の色であるという期待をしない方が良いはずだ。


「………。」


 私の行動を見て、ジャックさんもおずおずとフードをかぶり直した。


 そして、ワイバーンスカーレットごしに口を開く。


「その……見たよな、俺の角。」

「……うん。」


 ごまかす必要はないだろう。私は素直に頷く。そして、私もジャックさんに訪ねる。


「その……見ましたよね、私の髪と目。」

「……ああ。」


 そして、カナンから移動していたときと同じような……いや、それよりも深く、酷く、沈黙がおりる。


 言うべきことがある。聞きたいことがある。が、恐怖……いや、違う。『気まずさ』。そう、気まずくて、聞けない。言いにくい。


 ……でもまあ、言わずにいる方が困るか。


「ジャックさん。大切な話をしましょう。これからの旅にも関わる、大切な話です。」

「……ああ。だが、これだけは先に言わせ……」

「まず、このワイバーンの解体作業をしましょう。」


 あっ、ジャックさん、何か言いかけてた。ごめんごめん。でも、ぐだぐだ会話するよりも先に、まずは目の前のことでしょ。


 ジャックさんはポカンとした表情でこちらを見た後、何故か苦笑いをして解体作業に取りかかった。


 なお、当然のごとく、ワイバーンからの素材剥ぎ取りはジャックさんの方がうまかった。というか、私は途中から戦力外扱いされた。解せる。後でやり方を教えてくだせえ。


 ワイバーンスカーレットから剥ぎ取れた素材は、体から赤い鱗つきの革や肉にハンドボールサイズの真っ赤な魔石、翼の部分から赤い皮膜と鋭く硬い爪、そして、尻尾と切り落とした頭。


「このワイバーンは上位個体……っていうか、変異個体だからな。余すところなく売り飛ばせるだろう。」


 ワイバーンスカーレットの解体を終えたジャックさんが、手を水筒の水で洗いながら呟くように言う。


「ふーん。でも、持って帰るのは大変そうだね。」

「一回、村に戻るか。ワイバーンは群れらしいからな。しばらくは懐が暖かくなりそうだ。」

「むしろ強盗に狙われそうで背筋が冷たくなりそうだけど。」


 村長に依頼されたのは、ワイバーンの群れの殲滅だからな……。魔法のバックやら空間魔法やらは私たちには使えない。くっそ重い戦利品を歩いて持ち運ばなくてはならないのだ。


「で、大切な話……だったか?」

「ああ、そうだった。」


 はりつめた空気がジャックさんから発せられる。まあ、言いたいことは一つだ。


「フードの中身についてだけど……お互いに見なかったことにしない?」

「………はっ?」

「えっ?」


 ジャックさんは本気で意味がわからないという顔をする。


 えっ、私何か不味いことでも言った?

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