第76話 side茜 勇者の国の闇

 いつの日からか、茜は軍の訓練に参加しなくなった。リュートらが休むように言っても、訓練をひたすらつみつづけた。


 怪我をすればポーションを飲み、光魔法を使い、応急手当をする。罠を見つければ解除し、どうしてもだめならば他の道を通る。敵はいくら強かろうが、多かろうが立ち向かい、切り刻む。


 


 そんな無謀な訓練じさつこういが始まってから数週間。茜のレベルは既に100をこえた。


 そんな、ある日のことだった。


 ダンジョンでの狩りを終えた茜は、冒険者ギルドの扉を開ける。


_______何か、騒がしいわね……。


 いつもよりもうるさいギルドに、茜は魔石のはいったバッグを背負いなおし、騒ぎに耳をそばだたせる。


「_______白い女の子、ですね?」

「ええ。そうよ。」


 どうやら妙齢の女性が人探しをしているらしい。受付嬢の兎獣人ラビが発注書にさらさらとペンを滑らせている。


 だが、騒がしい理由は他にある。


 巨大なバトルアスクを背負った男に、茶色の毛の熊獣人。水晶の杖を持った女性と、金属製の指揮棒のような短杖を持った美少女。それに、影の薄い男性。


「ギルマス派の『ドラゴンの息吹』ね。」


 『勇者の国』はダンジョン地帯と呼ばれるほど、大小あわせて大量のダンジョンが存在する。ダンジョンはコアを破壊しない限り、半永久的に魔物を産み出し続ける。


 産み出された魔物は、何も手をつけないとただただ増える。増えて、増えて、増え続け、最終的にダンジョンから溢れだす。大暴走スタンピードだ。


 大暴走が起きないようにするために、冒険者たちはダンジョンに入り続け、魔物を定期的に狩り続けた。


 はじめは、ただの親切心からだった。


 そのうちに、利益を求めるものが増えた。


 貴族は珍しいダンジョンの魔物の素材を求め、わざとダンジョンコアを破壊せず、魔物を人為的に増やすものが現れ、数年前、それでスタンピードが発生し、街が一つ無くなった。


 その反省として、ダンジョンコアを積極的に壊すべきだというギルマス派と、ダンジョンを残し利益を得るべきだという貴族派に別れ、対立した。


 対立は溝を深め、闇討ちさえもおこりえるようになり、今に至る。


 ルーラーら、ドラゴンの息吹はギルマス派だ。


_______何か、あったのかしら?


 茜はちらりと耳をそばだてながら、買い取りの列に並ぶ。どうやら行方不明となった少女は、ギルマス派に関わってしまったらしい。


 そうこうしているうちに、順番となった茜は、適当に魔石と素材を売り払う。


 そして、腰にさした刀を軽くなで、ギルドの外に出る。夕暮れの空を見上げ、茜は、きっと目を細める。


_______気に入らない。派閥なんて。


 足取り軽く、しかし、油断のない動きで路地へ入る。周囲を警戒することを忘れずに。


 路地裏を適当にふらつき、目に入ったアゴヒゲの男に声をかける。


「ねえ、白い女の子を見かけなかった?」

「あ?誰だ?てめえ。」


 アゴヒゲの男は突然声をかけてきた茜に対し、喧嘩腰で睨み付ける。


 茜は思わず、呟いた。


「気に入らない。」

「……あんだと?なめてんのか?女ァ。」


 男は額に青筋を浮かべ、ナイフを抜く。


 そのナイフが振るわれるよりも先に、金属どうしが擦れ会う音が辺りに響いた。


 ギンッ!!カランカラン………


「……はっ!?」


 刃は路地に落ちて転がる。

 ナイフの柄だけを握った男は、ポカンと茜を見る。茜は、いつの間にか真っ赤な刀身の刀を握っていた。


 数秒遅れて、男はやっと気がつく。目の前の女性に、鉄製のナイフを切り裂かれたことに。


「ひぃっ!?」


 男性は情けない悲鳴をあげ、その場にへたりこむ。


 茜は、悠々と口を開く。


「あなた、白い女の子を知らない?」

「へっ?白い女の子……ですかい?ああ!知っているぞ!だからその不気味な剣をしまってくれ!」



 数分後。茜は白い髪の毛の少女を保護した。

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