第72話 王都の外へ

 魔石の換金を済ませた私は、宿屋、『青空亭』へと向かった。


 理由は簡単。お別れを済ますためだ。


 借りていた部屋に戻り、少ない荷物をまとめてから、私は階下に降りる。


 入り口のカウンターには、誰もいなかった。どうやら買い物に行っているようだ。

 一瞬、不用心だと思ったが、厨房におじさんがいるらしい。


 私は、少し迷ったすえ、持っていた紙に文字を書いた。文字の読み書きができるって、本当にいいね!


「えーっと、今から別の町へ向かいます。この瓶に入っているのは、万能薬です。大抵の病気なら治せます。お体をお大事にしてください。いままで、ありがとうございました。っと。」


 あれっ?お体をお大事にしてくださいって、どう書くのだっけ?とりあえず、似た意味のこれでいいか。


 うーん、ここ何日か勉強をしていなかったからなあ……。ちょっとうろ覚えになっちゃってるな。


「これでいっか。後は、万能薬と宿代を置いておいてっと。」


 カウンターの上に紙と硬貨、万能薬の入った小瓶を置いておき、私は荷物を背負い直す。

 そして、質素な木の扉を押し開ける。


 出る前に、振りかえって言う。


「いままで、ありがとうございました。」


 『青空亭』と書かれた看板の掲げられた質素な二階建ての建物の、質素なドアを閉めた。




「昨日はキツかったね。ロック20羽とか、ふつう、一つのパーティーでどうにかする量じゃないよ。」


 そうぼやく熊の獣人、グルーに、斧を背負ったルーラーが、キョトンとした表情を浮かべる。


「ん?そうだったか?俺は楽しかったけれどもな。」

「あんたねえ……私らは戦闘狂じゃないのよ。」


 女性冒険者のイレイサーが、呆れたように言い、冒険者ギルドの扉を開く。


 その時。


「ラビちゃん!真っ白い女の子を見なかった!?」


 妙齢の女性が、ギルドの中へと駆け込んできた。

 真っ白い女の子という言葉に、ルーラーたち『ドラゴンの息吹』は顔をしかめた。


「オバサン、一体何があったんだ?」

「手紙とお金を置いて、どこかへ行っちゃったの!」

「金はおいて行ったのだろ?だったらいいだろ。」


 よくわからないという表情を浮かべ、ルーラーはそう言う。

 そんなルーラーに、おばさんは一喝する。


「良いわけないでしょ!この手紙を見なさい!!」


 そう言ってルーラーにつきだしたのは、足名の書いた置き手紙。


 手紙には、こう書いてあった。


『今から別の町へ向かいます。この瓶に入っているのは万能薬です。ほとんど全ての病気を癒すことができるでしょう。長生きしてください。いままで、ありがとうございました。』


「……何だこれ?」


 思わずルーラーはそうぼやく。


「何か、不穏な手紙ね。」


 手紙を覗き混んだイレイサーはポツリと言った。

 不安そうな表情をしたおばさんが、言う。


「すごく良い子だったの。初めて来たときに顔色が悪くて、心配してたのよ。めずらしい見た目をしていたし、何かあったのか不安だったの。」


 グルーは盛大に顔をしかめた。


_______派閥関連で何かがあった……?それとも、僕の考えすぎか……?

「シロちゃんのこと、探す?」


 そう聞いたグルーに、イレイサーとペンシル、ケースはひどく驚く。


「腹黒グルーが良いこといっている!明日はドラゴンが王都に突っ込んでくるんだ!!」

「ドラゴン?生ぬるい!魔王軍が王都に進行してくる、だろ!」


 茶化すペンシルとケースに、グルーは額に青筋を浮かべて地を這うような低い声を出した。


「僕だって、怒るよ?」

「「ごめん!でも、本当に意外だった!」」


 足名の旅は、前途多難のようだ。

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