第60話 閑話 王子二人

 足名の葬儀の終わった夜。


「エリック。話がある。」


 第一王子、リンフォールは書類を届けに来ていたエリックに声をかけた。

 エリックは小首をかしげ、リンフォールあにを見る。


「どうしました?」

「ヒカリ様のことだ。」


 リンフォールの様子を見たエリックは、思わず目を見開く。


「兄上!その、僕は……」

「案ずるな。分かっておるわ。」


 焦るエリックに片手を振り、リンフォールはペンを動かしながらため息混じりに言う。


「協定を組もう。余計な争いをしている暇は我らに無い。どちらが選ばれようとも、恨み嫉みはなしだ。」

「ですが……!」

「くどい。理解せんか。」


 引き留めようとするエリックを、リンフォールは一蹴し、後ろに控えていたメイドのミンに声をかける。


「ミン、エリックを頼む。」

「リンフォール様……良いのですか?」


 唇の端を噛んだミンが、辛そうに言う。

 リンフォールは自虐的な笑みを浮かべ、言う。


「ああ。良いのさ。これが最良の判断だろう?」

「でも……!!」


 今だ何か言おうとするエリックを、リンフォールは手を伸ばして制止する。


「エリック。良いな?」

「………はい、兄上。しかし、しないで下さい。ならないで下さい。」


 エリックの真っ直ぐな瞳を見つめるリンフォールは、ふっと口角を上げる。

 それを見たミンが、涙ぐんで言う。


「リンフォール様。やはり、貴方は器用なのに、不器用ですね。」

「泣くな、ミン。俺が愚かなだけだ。」


 リンフォールはそう言うと手に持っていた紙に火をつける。メラメラと燃え上がった薄い紙は、あっという間に灰になって消えてしまう。


 そして、リンフォールは念を押すようにエリックに言う。


?エリック。」

「分かりました。兄上。」


 悲しそうな顔をしていたエリックは、覚悟を決めた顔つきになり、リンフォールの部屋から出ていった。




 リンフォールは、エリックが出ていった扉をそっと見つめながら、呟くように言う。


「もし、この世に神が本当にいるのなら、エリックに、我が弟に、幸運を。」


 その言葉を聞いたミンは、耐えきれずにリンフォールの書斎の絨毯に涙を溢した。

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