第56話 あかねちゃんの決意
「……わかりたくないけれども、理解できたわ。クルートさん。」
茜は、目を真っ赤に泣き腫らしながら言う。
クルートは緑色の目をちらりとフードから覗かせると、口を開いた。
「……ついてきて……場所……教える……」
小さく低い声は、礼拝堂のなかに響き渡る。
礼拝堂の外へ出ようとするクルートを茜は静止する。
「待って。リンフォール王子と前田先生に伝えないといけないわ。」
「……わかった……ここ……待っている……」
クルートは途切れ途切れにそう言うと、礼拝堂の椅子にどっかりと腰を下ろす。
それを見た茜は、礼拝堂を後にした。
「ここか?随分と埃っぽいところだな。」
「………そうですか。足名さんは、ここで。」
護衛の騎士に囲まれて、リンフォールと前田、そして、茜とクルートは地下牢へと降りていく。
涼しいというよりは寒いといった方が正確な地下牢は、何やら異臭が漂っていた。
「……ここ……見たくない奴……見るな……」
クルートは、一室の牢屋を指差す。
バラバラに切り刻まれて破壊された牢屋の鉄扉。漂う異臭の原因はここにあるらしい。
茜は、前田の制止をふりきり、牢屋のなかに足を踏み入れる。
そこにあったのは、半分以上が赤色に溶けた死体。肩くらいの長さの茶髪と、残った白く冷たい顔から何とかそれが足名であったということがわかる。
「のの……。」
「うっ、おえぇぇっ!!」
あまりにも酷い状態だったためか、一人の騎士がその場にうずくまる。
茜は、震える手で、足名の頭に触れる。
ひんやりと冷たくなった体に、脈は感じられない。
ふと、茜の視界がぼやける。
「嶋崎さん。もう、ここから出てください。」
前田が辛そうな声で茜に言う。
足名の死を感じとった茜は力なく牢屋から外に出る。ポロポロと目からこぼれた雫が、牢屋の石畳を歪な水玉模様にしていた。
冷たい地下牢の壁に寄りかかり、茜は涙をぬぐう。
そして、深く息を吸い込み、吐き出す。
肺にあるの淀みと躊躇いを吐き出すために。
リンフォールと前田が足名の死体を確認している間に、茜は、やや離れた箇所から集団の様子を眺めていたクルートに声をかける。
「クルートさん。」
「………何か……。」
クルートは、翡翠の瞳を茜に向ける。
覚悟を、意思を、決意をした茜は、口を開く。
「強く、なりたいです。」
「……そうか………。」
茜の言葉を聞いたクルートは、一度目を伏せると、凄まじい殺気と共に手を伸ばす。
ギャリィィィ!!
半ば本能で引き抜かれた茜の刀が、鋼鉄に近い硬度をもった糸を断ち切る。
糸は茜の首の辺りを漂い、重力に従って地下牢の石畳の上に落ちる。
「何だ!?」
クルートの殺気に、一歩遅れて反応した騎士達は、リンフォールと前田を背後におき、剣を抜く。
茜は油断なく刀を構え、凄まじいプレッシャーを放ち続けるクルートと対峙する。
_____あの時のオーガよりは、怖くない。
浅く呼吸を繰り返し、茜は真っ直ぐクルートの翡翠を睨み返す。
その瞬間。ふと、プレッシャーが消え失せた。
「えっ?」
「おお?」
押し潰されるようなプレッシャーから解放された騎士達が声を上げる。
が、茜は油断なく、本能の命じるまま目の前の空間を切り裂いた。
ギャン!!
金属と金属が擦れ合う音が響き、石畳の上にもう一本、ほぼ不可視の糸が落ちる。
「……へぇ………。」
手を引いたクルートが、感心したような声を出す。そして、口の両端を持ち上げた。
______笑っている………?
茜は刀を構えたまま、クルートの様子を見る。
クルートは不器用な笑顔を浮かべたまま口を開く。
「……いいよ……リュート……呼ぶ。……強さ……求めるなら……頑張れ……。」
「……へ?」
クルートの言葉に、茜は思わず間抜けな声を出てしまった。
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