第53話 おそーじ、おそーじ

 夜、しっかりと睡眠をとった私は、太陽が昇るよりも先に起きた。


 白髪を適当にとき、濡らした布で体をふき、フード付きの服を着て、少ない荷物を整えて階下におりる。


 ふと、廊下に人の気配を感じて、私は少しだけ立ち止まり、確認する。

 廊下では、宿屋のおばさんが箒で廊下を掃き掃除していた。


 朝早いにも関わらず、廊下を掃除しているおばさんに私は笑顔で挨拶をする。


「おばさん、おはようございます。」

「おはよう。ずいぶん早いわね。」


 おばさんは顔を上げて笑顔で私に声をかけてきた。

 私は、簡単に答える。


「これからギルドに行ってきますので。」

「……ん?商業ギルドかしら?」


 少しだけ、おばさんの顔に困惑が浮かぶ。


「冒険者ギルドですが……」

「えっ、大丈夫⁈」


 おばさんは持っていた箒を木張りの床に落として、私のことを心配する。

 あまりの驚きように少しだけ困惑したが、理解した。


 冒険者ギルドは、社会的信用がアホ程低い。

 ジョブのチェックも犯罪歴の有無も確認されないような、正に信用のない人間が就職するような場所だ。

 そんな場所に子供が行くのだから、それは心配されても仕方がないだろう。


「あー、大丈夫ですよ。」


 私はあいまいな返事をして、『青空亭』から出て行った。




「よく考えれば、全然大丈夫じゃないわね。」


 誰もいない通りを歩きながら、私はぽつりとこぼし、ステータスを表示する。

 白髪と赤目を隠すため、フードは深くかぶっている。不審者みたいだな……。


名前

種族    レベル 1

ジョブ 薬師

HP 20/20 MP 10/10

筋力 15 知力 20 瞬発力 15 精神力 20

アビリティ

生成(薬品)【1】  薬物知識【1】

称号

【赦された者】


 初期値になったレベルに、ステータス。MP10では塩酸を生成することすらかなわない。

 つまり、私の攻撃力は、実質皆無。

 だれかに攻撃されても、仕返しはできないし、瞬発力のステータス的に逃げるのも難しい。


 あれ、これ、どんな人生難易度ルナティック?


 目下の目標は、MPを15にまで上げること。

 MPが15あれば、水を用意するだけで一回だけ塩酸が生成できる。心もとないね!

 だがまあ、何もないよりははるかにましだろう。


 私は、冒険者ギルドの木製の扉を押し開けた。




「うーん……『ドブ掃除』に、『ゴミ拾い』、『荷物運び』、ちょっと厳しくて『薬草採取』。」


 『G』と書かれたボードの依頼表を見ながら、私はつぶやく。


 薬草採取は、 薬草の識別自体は【薬物鑑定】で十分にできる。が、外に出て、魔物や野生動物と遭遇すると厳しい。

 死んでしまったら某RPGのように教会で復活などできない。基本方針は「いのちだいじに」だ。


『ドブ掃除』

依頼主:商業ギルド

報酬:大銅貨1枚(清掃状況によって追加報酬あり)

概要

 王都商業地区のドブ清掃。清掃用具の貸し出し可能。

 終了次第、商業ギルド受付に報告して依頼完了のサインをもらうこと。

期限

 依頼を受けてから一日。

受付制限

 なし(Gランク推奨)


『ゴミ拾い』

依頼主:商業ギルド

報酬:大銅貨1枚(麻袋二袋以上のゴミを清掃以降、一袋ごとに半銅貨2枚の追加報酬あり)

概要

 王都商業地区のゴミ拾い。清掃用具の貸し出し可能。

 終了次第、商業ギルド受付に報告して依頼完了のサインをもらうこと。

期限

 依頼を受けてから一日。

受付制限

 なし(Gランク推奨)


『荷物運び』

依頼主:肉屋ローストオーク

報酬:大銅貨1枚

概要

 仕入れされたオークの運搬。

 終了次第、店主に報告して依頼完了のサインをもらうこと。

期限

 依頼を受けてから一日。

受付制限

 なし(Gランク推奨)


 報酬も悪くない。二つとも成功すれば、大銅貨2枚。つまり、一万円だ。

 宿代三千円銅貨六枚と今日の食費(予定)の千円銅貨二枚をひいても、残りは六千円大銅貨一枚と銅貨二枚。十分な黒字だ。


「『荷物運び』は筋力のステータスが低いからキツイか。よし、『ドブ掃除』と『ゴミ拾い』を受けよう。」


 そう考えた私は、ボードから『ドブ掃除』と『ゴミ拾い』の紙をはがし、受付に提出する。

 ウサギ耳の生えた美人な受付が眠そうにあくびをしながら受付をしてくれた。

 朝早くてごめんね。



 朝早くから出かけたこともあり結局、依頼はお昼過ぎに終わった。

 なお、学校での掃除の経験が生き、追加で銅貨3枚がもらえることになった。


 私は、半ばスキップで冒険者ギルドの木製の扉を開けた。

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