第51話 城下町

「何か、やたらに警備が薄かったなー。」


 あっけないほど簡単に城から脱出できた私は、その足で冒険者ギルドの方へと向かった。

 理由は簡単。お金が無かったからだ。


 よくよく考えて見れば、私は城から出てきたのは、これが二回目だ。城ではお金を使う必要が一ミリも無かったので、今の所持金は、半銀貨7枚と銅貨5枚。

 半銀貨一枚は大体1万円くらい。銅貨一枚は大体五百円位だ。


 つまり、今の私の全財産は、72500円。これでは、少々心許ない。


 ついでに、宿一泊は大体大銅貨1枚(5000円)。もちろん、食事は含まない。

 田舎ならばもう少し安いらしいが、いくら腐った国とはいえ、ここは大都会王都だ。宿泊費や物価は誰が何と言おうと高くなる。


 こういうときにクリストさんの授業の有り難みが分かるなぁ………。


 私は、まだ誰も歩いていない街道を半ば駆け足で冒険者ギルドへと向かった。



 大きなレンガ造りの建物。ダンジョン探索の時、一度来たことのある、冒険者ギルド『勇者の国』王都支部だ。


 一度登録をしたことのある身だからよくわかる。冒険者ギルドは、登録がバカみたいに緩い。

 ステータスの提示はしなくて良いし、ジョブも犯罪歴も調べられない。だから犯罪者の巣窟と呼ばれるのだとは思うが、口には出さない。


 木製の扉を押し開けて、ギルドの中に入る。


 早朝と言うこともあり、ギルドの中には酔いつぶれて机に突っ伏した獣人や、眠そうにカウンターに突っ立った職員が数人いるだけだった。


 私は、カウンターの前に立って、眠そうな女性職員に声をかける。


「すいません、冒険者登録をしたいのですが。」

「うーん?え、ああ。冒険者登録ね。この紙に、名前と年齢を書いて。文字は書ける?」


 緑色の髪の女性職員は、目を擦りながら一枚の紙を私によこす。

 私は女性職員にお礼を言ってから、名前を書こうとして手が止まる。


_____私、今、名前がないじゃん……。


 少しだけ迷ったあと、諦めて『シロ』と書く。思い付かないし、適当で良いよね。

 それを見た、女性職員の目が、一瞬見開かれる。


「シロさんで、あっていますか。」

「はい。」

「……わかりました。では、当ギルドの説明をいたします。まず、冒険者同士のトラブルには関知いたしません。以上です。」

「雑かっ!!」


 思わずつっこんだ私に、女性職員は苦笑いをして答える。


「契約書に目を通して頂けたようですし、特筆して言うべきことはそれだけです。出来れば死なないように頑張ってください。」

「わかりました。……あー、あと、すいません、この辺で、女性も安心して泊まれて、値段の安い宿ってありますか?ついでに、服屋も。」


 私の質問に、女性職員は紙切れに簡単な地図を書いて渡してくれた。親切な女性職員に感謝。



 服屋で下着と着替えを購入してから、職員に紹介してもらった宿、『青空亭』に向かう。


 青空亭は、仲睦まじい夫婦が経営している小さな宿らしい。良心的な価格設定とそこそこ美味しいご飯が人気なのだとか。


 『青空亭』と書かれた看板の掲げられた質素な二階建ての建物の、質素なドアを開ける。


「すいません、ここに泊まりたいのですが……」

「きゃっ!?ちょ、ちょっと、あなた、大丈夫!?」


 カウンターの前で帳簿に書き込みをしていた恰幅のいいおばさんが、私の姿を見て小さな悲鳴を上げた。


 おばさんの反応に困惑しつつ、言葉を続ける。


「えっと、一泊おいくらですか?」

「銅貨6枚だけれども……。」


 おばさんは少々おろおろしつつ、答える。

 銅貨6枚、つまり、だいたい3000円くらい。相場から考えれば、かなり良心的だ。


「じゃあ、これで。」


 私は、ポケットから大銅貨を1枚渡す。


「は、はい。銅貨4枚のお釣りです。部屋まで、案内するわね。」


 おばさんはそう言うと、一階の一室に案内してくれた。


 部屋は、古いもののきっちりと手入れがされているようだ。ベッドとクローゼットと机だけの、簡素な部屋。……城の元私の部屋と似たり寄ったりだ。


「ありがとうございます。」


 おばさんが下がったあと、私はベッドに寝転がる。


_____おばさんのあの反応、私の髪の毛と目の色のせいかな……


 ぼんやりする頭で、そんなことを少しだけ考えたが、徹夜の疲労と、緊張が一気に解れた事もあって、私はそのまま眠ってしまった。


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 足名の所持金……半銀貨4枚と銅貨9枚(44500円)


 お金

 半銅貨 百円 お菓子やリンゴ等が買えるくらい

 銅貨 五百円 ちょっとした食事ができるくらい

 大銅貨 五千円 宿一泊くらい


 半銀貨 一万円 服一着くらい

 銀貨 五万円 安い剣一本くらい

 大銀貨 五十万円 ちゃんとした装備くらい


 半金貨 百万円 いい感じの防具くらい

 金貨 五百万円 買い物ではあまり使わない

 大金貨 五千万円 一軒家が買えるくらい


ミスリル貨 一億円 王城の宝物庫に数枚あるくらい

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