第43話 負茶悔(おちゃかい)
「教官!!もう少し訓練をさせてください!」
「……ヴァイス、急患だ。今すぐこいつを医務室に連れていけ。」
「本当に心配しないでもらえます!?」
地獄の訓練が終わったあと、お茶に参加したくない私は教官に声をかけた。結果がこれだよ。
私はわりと必死に教官にすがり付く。
「お願いします!最悪、内臓を二、三個破壊されても、今なら文句は言いません!」
「いや、俺がマエダに怒られるから。……おーい、フクシマ!!今すぐこいつに【ヒール】をかけてやれ!」
「無傷です!頭を打ったりもしていません!」
教官は渋い顔をして福島さんを呼ぶ。
私は全力で無傷をアピールした。
「手合わせ!!手合わせをお願いします!」
「だから、マエダに怒られるっつってんだろ!あいつ、怒ると何かめっちゃ怖いんだよ!」
教官がやや顔を青くしながらそう言う。
わかる。でも、今は教官のことなど考えている余裕がない。
「教官じゃなくても良いです!訓練を具体的には日が落ちきるちょっと前くらいまでさせて下さい!」
「ヴァーイス!!こいつを医務室に連れていけ!」
私は教官の腕にしがみついてそう言う。
教官は大声でそう叫ぶ。
胸が教官の腕に当たって以下省略みたいなことでも起きれば良いのだが、私の家は代々控えめだ。高望みはしてはいけない。
その光景を見てさんざん笑っていた後ろの騎士さんが、腹を抱えながら口を開く。
「なあ、アルフレッド。アシナに何か事情があるんじゃないのか?」
「やだなぁ。そんなわけないじゃないですか。ありがとう、騎士さん!!」
「どっちだよ!?」
教官が思わず突っ込む。
見かねたあかねちゃんがそっと私の肩を叩き、言う。
「ちょうど、私ももう少し訓練がしたいと思っていたの。のの、一緒にしましょう?」
「あ、あかねちゃん!!」
私は即座に教官から手を離し、あかねちゃんの方を見る。と、誰かが爽やかな笑顔であかねちゃんの肩を叩き、言う。
「お、アカネ。俺と手合わせしようぜ!」
「「頼む!
「お、おう……。」
私とあかねちゃんのシンクロに、思わず朝井は一歩下がる。
が、遅かった。
「アシナ様。この後はお茶会でございます。今すぐ湯あみをしてください。」
底冷えするような、メイドの声が、背後から聞こえてきた。
首が、ぎぎぎっと軋むような音(幻聴)たてながら、後ろに向く。
「い、いまから、あかねちゃんと手合わせをするのですが……」
「アサイ様がご所望しているようです。アシナ様、こちらに。」
「こちらにって、ガッツリ手を掴んでいるじゃないですか!あ、ちょ、まっ、」
こうして、私はお茶会に引きずられて行った。
慣れない
_____きっと、今、私の笑顔はひきつっているのだろうな……。
目の前には、高そうなティーカップに、お洒落なお菓子。そして、リンフォール王子と、よくわからないが、恐らく高貴な身分の男性が二名。
何やら深い話をしているが、全く理解できない上にわからない。そして、付きまとい続ける違和感。
_____助けて、あかねちゃん!!
お菓子の味がよくわからない。紅茶の味の違いなんて理解できない。茶葉の産地?わかるわけないだろ!
「____ナ様、アシナ様?」
「はい?」
「ああ。よかった。話を降っても返事をしてくれないから、疲れてしまったのかと。」
「申し訳ありません。」
私はとりあえず頭を下げる。
栗毛の男性が私に優しく声をかけてきた。
「体調が悪いのだったら、無理をしない方がいい。」
「ははっ、ありがとうございます。ぜひ_____」
「アシナ様、こちらの本を読んだことはありますか?僕のおすすめなのですが。」
私が乾いた笑みと共にフェードアウトしようとするのを、青色の髪の毛の男が阻止してくる。
_____何回本を進めてくるの!?あと、栗毛の人、お願いもう少し頑張って!
「ああ、読んだことがありませんね。図書館にありますか?」
「ええ。司書に聞けば教えてくれるでしょう。」
「ありがとうございます。ぜひ、読んでみますね。」
「そうそう、この本に書かれている、月の都と言うのが………」
会話が理解できなくなった私は、お菓子に手を伸ばす。サクサクといい歯応えのクッキーはかなりお腹にたまる。カロリーがヤバそうだ。
ふと、味に違和感を感じた私は、失礼だとは思いつつも【薬物知識】で食べかけのクッキーを眺めて見た。
[毒入りクッキー]
オニカブトの毒の入ったクッキー。たくさん摂取すると、中毒で死亡する。隠し味はダンジョン牛のミルクから作った高級バター。
私は思わずクッキーを遠くへ投げ捨てる。
「ぶっ」
「ちょ、アシナ様!?」
それを見たリンフォール王子が紅茶を吹き出した。
改めて机の上をチェックすると、ほとんどすべての食品にオニカブトが入っている。うそん。
「毒が入っています!【生成(薬品)】!!」
なけなしのMPを使って、四人分の解毒剤を生成する。
「はっ、いったい何を……っ、これは!!」
「くそ、オニカブトか!!」
鑑定か何かで机の上をチェックしたのだろう。青髪と栗毛が青い顔をして、王子を支える。
あったま痛い。何だ、殺す気か?私を。
「あってよかった、毒物耐性。」
「アシナ様、ありがとうございます!こちらの解毒剤、王子に使わせていただきますね!」
「あっ、はい。」
そんなこんなで、お茶会は終わった。
一体全体、何が起きたのだかさっぱりだ。
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