第34話 オーガが現れた!

「うそん」

「逃げましょう!!」


 クリストさんは大声で避難誘導をするが、オーガはそれを許してはくれないらしい。


「ちょっ、こっち来た!」

「のの、私の後ろに!」


 フラリとオーガは近くでまだ倒れている人たちを無視して私達のほう、つまり、3層へ逃げるための通路の方へとやって来る。


 あかねちゃんは刀に緑色の血液をこびりつかせたまま戦闘態勢に移る。朝井くんや教官もそれぞれ武器を構える。


 しかし、オーガの行動は予想をはるか斜め上に通過していった。


 オーガは自らの足を手に持っていた大剣で切りつける。


 そして、大声で叫んだ。


「くっ!!ニンゲン!俺を、殺せ!」


「……えっ?オーガ(男)のくっ殺?」

「ちょっと!!のの!!」


 やや声を震わせながらあかねちゃんが私に言う。


「ふざけている場合じゃねえぞ!今のうちに逃げろ!」


 教官が私たちに叫ぶ。

 その時だった。

 オーガが完全に正気を失い、動かない右足を引きずりながら大剣を振り回した。


 ウガァァァァアアアア!!!

 ズガァァァン


 大剣はダンジョンの床を大きくえぐり、圧倒的な殺気が辺りを包み込む。

 二度、三度と誰にも当たらない攻撃を繰り返し、ダンジョンの地形を変えていく。


「格が、違う……。」


 あかねちゃんは震える腕を必死に止めて、オーガと対する。


 正気を失ったオーガは目の前にいるあかねちゃんと教官に攻撃……せずに、朝井くんの背後にいた福島さんに詰め寄る。


「えっ?!」


 そして……


「【多重結界】!!」


 ばきゃっ!!

「きゃぁっ!?」

「ひかり!!」


 大剣は結界を数枚砕き、あと二、三枚といったところでようやくその重い一撃を止めた。


「大丈夫、ひかりちゃん!!」


 結界を張ったのは、ジョブ『結界師』の上田うえだ りんちゃん。

 ミスリルよりも固いと評判の結界を、一瞬にして張った上田さんの力量には舌を巻くしかない。


 しかし、オーガはその結界に何度も切りかかる。


 ばきゃっ、ばきゃっ、がきんっ


 金属質な音を何度も響かせ、結界を崩していくオーガ。福島さんが恐怖で小さく悲鳴を上げる。


 それを、朝井は良しとしなかった。


「ひかりから離れろぉぉぉおお!!【ヒーロータイム】!!!」


 金色こんじきの光に包まれた朝井は、剣を振りかぶってオーガに突っ込んでいく。


 オーガは体を半身にそらし、朝井の一撃を避けた。そして、反撃とばかりに大剣を振るう。

 朝井はそれを大きく一歩下がることで避けた。


 ぶおん!!


 空を斬る鈍い音が響き渡る。

 そこにできた大きな隙を朝井は逃さない。


「うぉぉぉぉおおお!!!」


 オーガの脇腹に剣を突き立てる。

 ぐちゅり、と水っぽい音をオーガの咆哮が掻き消す。


 痛みからか、他の要因からか、一瞬、オーガの瞳に正気が戻った。


「はははっ、ハハハハハハハハハハっ!!」


 オーガは狂ったような笑い声を上げると、首もとに大剣を突き付け、


 そして、

 

 大剣を、引いた。



 ぐしゃっ!


 鈍い音と共に、真っ赤な血液がダンジョンの床を濡らす。

 オーガは、そのまま重力に従って自らの血の海に崩れ落ちた。


 奇妙な興奮と熱気がダンジョンの広場に広がる。


 私たちは、生き残った。

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