第17話 遠征の準備(遠くへ行くとは言っていない。)

 異世界に転移してから、速くも一週間が過ぎた。


 (鬼みたいな)軍の訓練が終わったその日、教官がふと、私たちを集めてこう言った。


「来週、魔獣討伐の遠征を行う!各自、準備しておくように!」


 ざわめき立つクラスメイト。

 とりあえず、私は教官に質問する。


「どこへ行くのですか?」

「王都のダンジョン、地下迷宮だ。」

「ちかっ!!ここから三十分じゃないですか!」

「アシナ、やかましい!話が終わったら、一試合組手だ!」


 ひどい!!

 私の質問の後、パラパラと皆が質問する。


「何日くらい滞在しますか?」

「1泊2日を予定している。」

「何が必要ですか?」

「食事やポーションの類いはこちらで用意する。武器を持っているものは武器を、その他持ち込みたいものがあるものはそれらを用意しておけ。」


 皆の質問が終わった後、解散………と、思ったのだが。


「おい、アシナ。お前は俺と組手だ。」

「ファッ!?」


 忘れていなかった!

 皆、一旦帰るのをやめて、こちらを見る。


「……教官、私、薬しか作れないのですけど。」

「そうか。頑張れ。」

「しかも戦闘中はMPが足りない以上、ほぼ何も作れないですが。」

「そうか。じゃあ、ハンデだ。今、強化薬を使って良いぞ?」

「どの辺がハンデ!?」

「おいおい、優しさの塊じゃないか。」

「……どの辺が?」

「……そんなに訓練がしたいのか。」

「うわー、優しい!教官、すごく優しいです!」


 ギャラリーからクスリと笑いが漏れだす。

 おい、笑うんじゃねえ。騎士さん。


 とりあえず、瞬発力強化薬とHP強化薬を使っておく。

 そして、注射器にHPポーションと瞬発力強化薬を注入してポーチの一番取り出しやすい場所に設置。


「準備は良いか?」

「(死ぬ)準備はできました。」

「じゃあ、初め。……かかってこい!」


 そう言われた瞬間、私は教官から一気に距離を取る。


 ズサァァッ


 三十メートルほど離れてから足でブレーキをかけ、教官の方を見る。

 ポカンとしたようすの教官。


 そういえば、教官と組手をしたことはなかったな。

 私は訓練のとき、攻撃の回避と逃亡を中心に訓練していたのだ。


 いや、ほら、私、戦えないじゃん?


 そのまま数秒間、互いに見つめあい、ハッとした教官が間合いを詰めにくる。


「ちょっ、速っ!!」


 私は教官に背を向けずに距離を取り続けようとする。が、何せ、速すぎる。


 教官がぶれたと思ったら、目の前に来ていた。

 そして、拳を振り下ろす!


 ドゴォッ!!


「あああああ!?あっぶな!!」


 ギリギリで回避。

 教官の拳がぶつかった地面に、小さいクレーターができている。


「あなた、本当に人間ですか!?」

「……ずいぶん余裕じゃないか。奥の手でも隠しているのか?」

「隠せる奥の手は持ち合わせていません!!」


 好戦的な光を瞳に宿す教官。

 涙目になるかける私。


「こないならいくぞ……避けろよ?」


 ボクシングのような構えをする教官。

 直後、すさまじい連打が私を襲う。


「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

「ハハハハハハハ!!!」


 一発貰えば私の貧弱なHPが消し飛びそうな拳の嵐をギリッギリで回避する。


 教官の笑顔が眩しい。


「ドS!!鬼!!鬼畜!!」

「……もう少し速く動いてもいいな。」

「良い人!!天使!!優しさの塊!!」


 ギャラリーから笑いが溢れる。

 それどころじゃない!

 きょうかんの猛攻を回避し続ける私の頬を拳が掠める。


 ビッ


「あ、当たっていないのに頬が切れた!?」

「……悪い。本職は剣士だからな。」

「剣なんて要らないじゃないですか!?」


 距離を取って、ポーチからHPポーションの軟膏タイプ、HP軟膏を一すくいとり、頬に塗る。

 なけなしのMPで作っておいた甲斐があり、一瞬で血が止まる。


「……ほぉ。」


 教官が感心したような声を出す。

 ある程度距離が離れたところで、教官が何かを詠唱していることに気がついた。


「炎よ、球を象りて彼の者を灰と化せ」

「え?中二くさ……」

「……【ファイアボール】!!」

「あああああああ!危なっ!!熱っ!!」

「【ファイアランス】」

「詠唱しなくても良いのかよ!危なっ!!」


 火魔法を必死で回避し、顔を上げる。

 が、先ほどまで教官がいた場所には、誰もいない。


「ちょ、いない!?」

「ああ。こっちだからな。」


 背後で教官の声が聞こえた。

 ゾクッとして、振り返らずに距離を取る。


 ズガァァァン!!


「痛い!」

「ちっ、外した。」


 舌打ちする教官。

 どうやら拳を振り下ろしたらしい。

 外れたにも関わらず、飛んできた石片や土で足や手から出血している。HPが3分の1ほど減った。


 慌てずさわがずHPポーションの入った注射器を腕に突き立て、注射。

 低級とはいえ流石は魔法薬。効果はすぐに現れた。

 空になった注射器をポーチに戻し、教官と向き合う。

 眉を潜めた教官が一言。


「こいよ。何か弱いものいじめをしている気分だ。」

「実際そうじゃないですか!」


 そのとき、ふと、奥の手を思い付いた。

 教官の拳を必死で回避。そして、その瞬間ときがきた。


「【生成(薬品)】HCl!」

「えいちしーえる?……っ!!」


 キョトンとした教官に生成した塩酸を投げつける!


 が。


「……見事!」


 あっさりと回避され、


 目で追えないスピードで接近され、


 頭痛のため回避ひとつできずに拳を腹部に受け、



 私の意識は消し飛んだ。


 ギャラリーの歓声が遠くで聞こえてきた。


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[HCl(塩酸)]

 強塩酸。金属を溶かすこともできる。

材料 水 酸素(MP代用) 塩素(MP代用)


 使用MP15


名前 足名 のの

種族 人間  レベル 1

ジョブ 薬師

HP 25(3up) MP 18(4up) 筋力 18(2up) 知力 30(3up) 瞬発力 18(2up) 精神力 31(4up)

 アビリティ 生成(薬品)【5】(2up) 薬物知識【4】(2up) 精神汚濁耐性【3】(2up)

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