13話ー②『彗』

「えっ⁈ お前ら知り合いなのか⁈」

「ううん。私の妹が鎖金君と知り合いなんだよ」

「へえー! 偶然だな!」



 ………本当、いらない偶然だよ。

 橘と彗がぺらぺらと喋り出す。風峰さん達は一時何処かへ行ってしまった為、俺達はロビーで待機している。他のグループも待機中だ。

 ――――――頼むから早く帰ってきてくれ!

 天神彗。現代には似合わない和服に身を包み、名前の通り、雷の姉らしい。

 雷の家族は特殊で、光軍トップの父親は「闇軍殲滅」を志とし、母親はそれに反対している。雷はそんな母親に似たらしく、ただ今絶賛家出中だ。

 そして、雷は姉とも仲が良くないと言っていた。

 つまり、雷の姉である彗は、父親側というわけだ。雷を庇っている俺に対して、敵意が無いわけがない。



「どうしたんだよ? 鎖金?」



 にゅっと顔を覗かれた。反射的に後ずさる。橘が不思議そうに首を傾げた。彗もこちらを見ている。



「い、いや………」

「もしかして緊張してるのか? 大丈夫だって! 気楽にいこうぜ!」

「あ、ああ………」



 緊張か………確かに俺は緊張している。証拠にほら、彗と目を合わせられない。橘さえいれば、変な悪態はつかれないと思うが………それでも威圧が怖い。



「どんなことをするんだろうね? この職業体験は」



 彗がふふっと笑いながら辺りを見回す。俺としては、何故あなたがこのイベントに参加してるのかが気になるところだけど……。



「え? 魔警察と戦うんじゃないのか?」

「それだけじゃないでしょ?」

「俺は戦えて友達になれればそれでいいんだけどなー」

「友達になるつもりなの? 魔警察と?」

「ああ!」



 す、すげぇな………どんな精神してるんだよこいつ。



「なら私とも友達になろうよ」

「ああいいぜ!」

「光軍所属なら」



 ピタリと、時が止まったような気がした。俺も橘も、困惑した目で彗を見る。彗は変わらず、妖しく笑っていた。



「橘海豚………そんな名前、光軍の名簿に載ってなかった気がするなぁ。もしかして君は……」



 闇の味方についているの?



 空気が張り詰める。彗は笑っているが、目が笑っていない。そんな雰囲気を醸し出していた。

 やっぱりこの人は、闇軍を目の敵にしている……! まさかこのイベントに参加した理由も、そのことが関係してるのか……⁈



「そういう話は、この場ではしないでいただけますか?」



 しばらく続いていた沈黙が破られた。彗と橘の背後から、風峰さん達が戻ってきていた。



「ここは魔警察。中立機関ですよ?」

「分かってますってー。何も本気で言ったわけないじゃないですかー」



 彗が橘に横目を向ける。



「そもそも私、友達なんて作らない質ですし」



 ――――――どうやらこのイベントは、大波乱になりそうだ。



「筆記試験、実技試験、面接をクリアすると、魔警察に所属することが出来ます」



 風峰さんが歩きながら話す。俺と橘は後ろで、彗は風峰さんの隣で聞いていた。飛炎さんと河東さんは俺達の後ろについている。



「基本的に、どの試験でも一定以上点を取らないと受かることは出来ないです」

「文武両道になれってわけだな!」

「そうですね。魔警察はどんな状況にも対応出来ないといけない立場なので」



 やはり魔警察に入るのはなかなか難しそうだ。だが同時に、そんな組織に所属していた母さんは凄いと改めて実感した。



「ただし、例外はあります」

「例外?」

「ええ。例えば、クウがその一人です」



 振り向いた。突然話題に持ち上がった為か、河東さんは驚いた顔で目を瞬かせていた。



「え? ワタシ?」

「クウは戦闘能力は皆無ですが、こう見えて巫女としての実力は物凄いのです。何でしたっけ? 一度に二十人の悪魔を浄化出来るのでしたっけ?」

「二十三人! そこ重要だよ! マイ!」

「何でそんな半端な数なのよ」

「しょうがないじゃん!」



 ぷんすか怒る河東さん。

 この人、こんな性格なのに、凄い人だったのか………そもそも魔警察にいるのだから、凄い人なんだろうとは思っていたけど……。



「クウみたいに、極端に長けているものがあれば、例外的に入ることは出来ます」

「ま、そんなの本当に少数だけどね」

「そうですね。無いものと思った方が良いです」

「真っ向勝負が一番ってことだな!」



 橘がガッツポーズをした。こいつは前向きだなあ。何も考えていなさそうだ。

 極端に長けているもの、か……。普通の俺には縁のない話だ。逆に、蘭李は入りやすそうだな。銃のスキル物凄いし。



「やっぱり、採用人数は少ないんです?」



 薄く笑う彗が、風峰さんに問いかけた。



「そうですね。量より質を求めているので。一番少なかった時は、一桁しか採らなかったと聞きます」

「うわあ………露骨だなあ」

「それだけポンコツばっかりだったってことね」

「えっ⁈ 待って⁈ じゃあ女の子少ないのはなんでなの⁈」

「身体能力の差じゃないの?」

「えーっ⁈ それじゃ男女同じ試験なの⁈ そんなのズルイじゃん!」

「そんなこと私に言われても……」



 確かに、少し女子の方が不利感はあるな。最も、俺の知っている女子はそんな不利感をものともしてないだろうが……。

 風峰さんが突然、ピタリと立ち止まった。大きな鉄の扉の前で、風峰さんが俺達に振り向く。



「さて。これからあなた方には、魔警察の仕事を体験してもらいます」

「いえーい! 待ってました!」

「この扉の先、私とカヤは「殺人犯」に、クウは「人質」になります。あなた達三人は魔警察として、我々を捕まえてみてください」



 飛炎さんが風峰さんの隣に立ち、にやりと笑った。

 ま、また魔警察と戦うのか⁈ もう二度と戦いたくなかったのに……!



「ハンデとして、我々は魔法を使用しません。頑張ってください」

「えー? 別に大丈夫ですよー?」



 俺達全員、彗に目を向ける。彗は長い茶髪を一つに結び、橙の鋭い視線を魔警察に向けた。



「捕まえる自信、あるので」



 雷とは似ても似つかない、低く冷たい声だった。

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