10話ー②【side L】『不気味な学園』

 家から車で約三時間。途中仮眠をとったから少しだけ体調は良い。車から降りてすぐの門をくぐって、まず目に飛び込んできた、巨大な城のような校舎。しかしそれは焼け焦げた半壊であり、窓ガラスもほとんどが割れていた。一目見て「何かあった」と分かる状態であった。

 建物の中に入ると、ここが日本とは思えないような西洋風のエントランスホールがあった。だがやはりあちこちが損傷を受けており、決して綺麗とは思えなかった。床や壁には、染みのようなものも確認出来る。



「うわー……まさか当時のまま残ってるのか?」

「ああ。魔警察が調査の為に、誰にも手を出させなかったからな」



 ということは、もう音を上げたってことか。本当にあの事件は迷宮入りしちゃうんだな。

 直人と拓夜についていき、廊下を歩く。窓ガラスの破片や廃れた武器、服らしきものなど、そこら中に様々なものが転がっていた。



「気味悪いな……ここ」



 拓夜がぼそりと呟く。たしかに私も感じた。それはこの惨状を見て言っているのではない。

 幽霊が一人もいないということにだ。

 普通、幽霊はどこにでもいる。それこそ、ここにはたくさんいるだろうと覚悟していた。それなのに、一人もいない。いる気配すらない。それが余計に不気味だった。



「幽霊はモノノケになる前段階。つまり、未練があれば存在する。よって、誰も未練を持っていなかったと考えるのが普通だが……」

「この学園に限ってそんなことあるか?」

「無いな」



 私もそう思う。何が起きたのか分からないが、全員が未練無しなんて考えられない。どこかに移動している可能性もあるが、普通幽霊は一ヶ所に留まるから、その可能性も低い。

 なら――――――。



「魂を消された?」

「いや、消されたんじゃない。恐らく、喰われた」



 喰われた、か……たしかに消されたより可能性はあるかも。

 魂を消す、っていうのはその名の通りなんだけど、天使悪魔の他に私達闇属性も出来ることだ。一方魂を喰うっていうのは、悪魔にしか出来ない。天使も出来ることには出来るらしいけど。

 何が違うかって言われると、まあただ単純に消え方が違うだけなんだよなぁ。消されるか、喰われるか。それだけだ。

 もし闇属性の誰かがここの魂達を消したのなら、闇軍総帥である影縫が知らないはずがない。さらに、悪魔が幽霊を食べるという行為は、私達人間の食事と同じように、エネルギーを得ることになるらしい。



「だから、幽霊はいないが悪魔はいる可能性が十分にある」

「だな……」

「気を付けてね白夜。いざとなったら守ってあげるからね」

「過剰な護衛はいらないからな」

「照れちゃって」



 無視した。さっきまで仕事モードだったのに急に戻りやがって。こいつ仕事モードなら超優秀なのになぁ……。

 私達は教室に入る。ここは被害が少なめらしかった。前方の教卓を基準に、弧を描くように並ぶ長机と椅子。相変わらず状態は酷いけど。



「だーれもいねーなー」

「それに越したことは無いだろ」



 直人と拓夜が各々歩き回る中、私はふと視線を落とした。椅子に四角い白い紙のようなものか落ちていたからだ。拾い上げ裏面を見ると、それは写真だった。



「え………?」



 思わず声が出た。直人に呼ばれた気がしたが、反応は出来なかった。

 写真の中で笑顔で写る十一人の少年少女。恐らく制服なのか、黒い服に身を包み、皆楽しそうだった。



 その中に、蘭李がいたのだ。



 蘭李だけじゃない。コノハも、恐らく蒼祁と朱兎もいた。全員笑っている。蘭李と朱兎は、私の知らない誰かとピースしている。蒼祁とコノハも、いつもの仏頂面ではなく小さく笑っている。



 なんだこの写真。

 というか、なんでこんな写真がここにまだ残っている……?



「どうした?」



 耳元で声が響き、思わず体が震えた。直人が後ろから写真を覗き込んでいた。少し離れ、写真を渡す。拓夜も直人の傍に寄った。



「これは……華城蘭李だよね?」

「ああ。蘭李だよ、間違いなく」

「へぇー。本当にこの学園にいたんだなぁー」





 ―――――――――ガンッ





 突然の音に、私達は顔を見合わせた。教室の奥―――窓側の後方から、その音は聞こえてきた。直人が拓夜を見てその方を指差す。拓夜は頷き、静かに向かった。私も音を立てないように太刀を抜き、じっと見守る。ある程度近付いたところで、拓夜が右手を振り上げる。影から何本もの黒い腕が周りに出現した。

 そして、「一点」へと拓夜が右腕を振る。何本もの腕は、その「一点」へと襲いかかった。



「うわぁあああああああああッ⁈」



 ――――――………え? 今の声って……⁈



「おし! 捕まえた!」



 腕達が蠢く何かを押さえ付ける目の前で、拓夜がガッツポーズをする。直後、その「一点」から大量の電撃が四方八方に放たれた。

 電撃……やっぱり聞き間違いじゃなかった……!



「拓夜! そいつを離せ!」

「はあ⁈ なんで⁈ 抵抗してんだぞ⁈」

「敵じゃない! 私の友達だよ!」



 不安そうな目で私を見る拓夜。少しの間の後、嫌々そうに指を鳴らした。一瞬で腕達が消える。

 瞬間、何かが「一点」から飛び出してきた。それは目の前に飛んでくる。銃口を向けられた瞬間、視界が暗くなっていく・・・・・・・・・・直前、その姿を認識出来た。

 思った通りだ……!



「蘭李ッ!」

「ッ―――――⁈」





 ―――――――――――パァンッ

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