9話ー⑥『迷いの森』
「おお! 六人も! 助かります~!」
桃色の瞳は私達を見回した。そして満足そうに頷くと、桃色のショートヘアを揺らしてガッツポーズをする。
「では! よろしくお願いしますよ!」
「えっと……具体的には……」
「ああ、そうでした。えっとですね、簡潔に言うと、増えすぎてしまった魔獣をある程度狩って欲しいのです!」
蘭李の魔獣退治についてきた私達がやって来たここは、魔力者大会の行われた闘技場だった。住所だけ見たときには全く分からなかったが、着いたらすぐに思い出した。あの時の戦いが脳裏によみがえる。結構危なかったなあ……。
「ところであなた達、大会に出てましたよね?」
「えっ?」
「魔力者大会団体の部!あなただけは乱闘戦でしたけど!」
蘭李を指差す女。蘭李だけでなく、私達皆戸惑っていた。
たしかにそうだけど……なんでこいつがそんなとこ知って――――――………ん? 何か見たことあると思ってたら……もしかしてこいつ…………。
「アタシのこと覚えてます? 司会者の多良見梅香です!」
「――――――ああーっ!」
雷と槍耶が同時に叫んだ。蘭李はあんまりピンときてないようで、首を傾げていた。
実は私も覚えてないんだけどな。私がわざわざ司会者なんて覚えているわけ無いだろ? そう見えるだろ? 正解だよ。
「思い出してくれましたね?」
ニヤリと笑う多良見。彼女から話を聞くと、大会一回戦目で使用した森に生息する蜘蛛の魔獣が、大量発生したらしい。今回はその数を減らしてくれという仕事だった。
司会者だっていうのに会場の管理もしないといけないなんて、意外と面倒な立場なんだな、こいつ。管理委員会とかそういう役職はないのだろうか。
「魔獣の大量発生とかあるんだね」
蘭李の何気ない言葉に、多良見はニッコリと笑った。
「魔獣とて生き物ですから! それに人間だって、大量発生してるでしょ?」
思わず背筋がぞくりとした。
いつかこいつ、「大量発生した人間をある程度狩って下さい!」とか言い出しそうな……。さすがにそれはないか? いや、ないことを祈ろう。
そして私達は、多良見に案内されて森に移動した。もともと天気が悪かったせいか、森の中は不気味な雰囲気を醸し出していた。薄暗いし、でもここなら魔法が使えそうだ。
辺りを見回した雷が呟いた。
「どうする? 手分けしてやる?」
「そうだな。三、三に分かれるか」
というわけで―――私と雷と槍耶、紫苑と蘭李と海斗に分かれた。紫苑達、それから蜜柑は右の方向へと行き、私達は逆方向へと向かい始める。秋桜と睡蓮も、もちろんついてきた。私達は横一列に並びながら歩く。
「ねー槍耶、その蜘蛛って心が読めるんだよね?」
辺りを警戒しながら、雷は視線だけ槍耶に向けた。槍耶も警戒しつつ、コクリと頷く。
「ああ。特に迷いを読んでくるんだと思う。だから迷いは断ち切らないと進めないんだ」
「嫌な性格だなぁー」
本当に嫌な魔獣だ。何か言われる前に倒したいが……。
「……ん? じゃあ槍耶は何に迷ってたの?」
ピクリと肩が揺れた槍耶。沈黙が降りた。ざわざわと、木々が風に揺れる音だけが聞こえる。槍耶は私の方を向いた。
その瞬間、銃口を向けてきた。
―――――――――――パンッ
咄嗟に顔を腕で覆ったのも虚しく、銃弾は放たれた。しかし痛みは無い。腕を下ろして振り返ると、木の幹に大きな蜘蛛が張り付いていた。蜘蛛はポロリと地面に落ち、動かなくなる。
「びっくりした……サンキュー、槍耶」
「いや……倒せて良かったよ」
槍耶がほっと胸を撫で下ろす。しかし今度は槍耶の背後に蜘蛛が見え、私は地面に手のひらをつけた。黒い手が木々の影から現れ、その拳は蜘蛛を殴った。振動で葉が揺れ、蜘蛛の体は落ちる。動かなくなった蜘蛛を尻目に、私達は武器を構えた。
「話は後だな」
「ああ」
「早く終わらせちゃお!」
そこら中に現れる蜘蛛。私達は躊躇うことなく、そいつらに襲いかかった。
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