第101話 ディエゴの話7

「マッハパンチのキング、いえ、ディエゴ・セナ、

入ります」

マッハパンチのメンバーがいちいち名乗って

一礼しながらネハンのホテルの部屋に入っていく。

 

シルバーのフォーマルな服装、彼らが言う正装を

して、ウィッグもつけていない。偽装は失礼に

あたる、という考えからだ。

 

アラハントやボッビボッビのメンバーも続く。

 

ネハンのメンバーは、最初入ってきたマッハパンチの

姿に少しひるんだ様子もあったが、全員を

暖かく迎えた。

 

「今日はみんな、おつかれさん、期待はして

いたけど、すごく良かったよ」

ネハンのボーカル、マット・コバーンだ。

 

そばに寄ると、逆に不気味なくらいに、全くスター

というオーラを感じさせない。相当な美男子で

あるにも関わらず。他の3人もそうだ。

 

いえいえ、そんなことはありません、とマッハパンチ

のクインが整った顔立ちで答える。キングが何か

言いたそうにしているが、ドリンクと軽食をすすめ

られて、みな部屋に思い思いにくつろぐ。

 

ネハンが泊まる、超高級ホテルの最上階だ。

 

エマドが、昔なにかの打ち上げでサキがいて、

語っていたのを思い出す。武術で本当に強いひとは、

逆に強そうに見えないらしい。そういう場所では、

オーラが出ていない相手ほど気をつけたほうがいい。

 

そもそもそういう場所に行かないよな、と思ったが、

今がまさにそういう場所なのかもしれない。

 

マット・コバーンが、一人ひとりの名前をあげて、

どこが良かったかを一つ一つ挙げていく。

これだけのアーティストに褒められて、悪い気分

ではなかった。

 

しかし、ついに、キングが話し出した。

「わ、私はですね、その、納得いってないんですよ、

確かにネハンは太陽系で最高のアーティストだと

思っとるんです」

 

「しかしですね、なんかもっとこう、我々が思いも

しない表現がもっと出来るんではないか、小生は

そう思っているわけであります!」

 

マット・コバーンは表情を変えず立ち上がり、

窓へ歩み寄って、外を見る。

「君の言いたいことはよくわかる、セナ君」

 

「しかしね、われわれも、苦労しているんだよ」

そういって、両手を頭にやった。

 

そのコンマ何秒で、エマドが回想する、この場面、

前にもなかったっけ。

 

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